『SUPERサイエンス 分子集合体の科学』2017/11/28
齋藤 勝裕 (著)
液晶モニターにも使われている分子集合体について、イラスト入りで分かりやすく解説してくれる本です。
地球上の全ての物質は分子の集合体からできているそうです。……まあ、確かにそうですね(笑)。そして分子集合体には、面白い性質がいろいろあるようです。その中で、すごく興味深かったのが「ガラス」に関する説明。
「ガラスの主成分は、二酸化ケイ素です。二酸化ケイ素の結晶は石英、水晶です。水晶を融点の1650℃ほどに加熱すると融けてドロドロの液体になります。ところがこの液体を冷やしても水晶には決してなりません。ガラスになります。(中略)ガラスは液体のような配列状態でありながら、流動性を失った状態(アモルファス、非晶質固体)なのです。」
ガラスが石英や水晶と同じ二酸化ケイ素だとは知っていましたが、加熱して溶かした水晶を冷やしても「水晶に戻らず」にガラスになってしまうとは知りませんでした(汗)。不思議なものだったんですね☆ でもこんな「液体のような固体(アモルファス)」っていうのは別に「珍しい状態」ではなくて、プラスチックの固体も同じ状態なのだとか……そう考えると、アモルファスって、すごく「使える状態」のもののようです。
そして一番興味津々だったのは、「液晶」についての説明。TVやパソコン、スマホでおなじみの「液晶」ですが、「液晶の最大の特徴は分子の向き、配向が揃っているということです。」で、その配向を人為的に操作できるということが重要なのだとか。
「液晶分子は単純です。容器(セル)に付いた擦り傷の方向に並ぶのです。ガラスでできたセルの向かい合った2面の内側に、平行な方向に擦り傷を付けます。このセルの中に液晶分子を入れると、分子は擦り傷の方向に並びます。もちろん擦り傷から離れれば効果は薄れますが、50~100 nm 程度は有効に働きます。次に、セルの片面の擦り傷の方向を90度ねじってみます。すると、何と液晶分子の方向もねじれるのです。らせん階段の要領です。」
……ふーん、液晶って「近くの擦り傷方向に素直に並ぶ」ものだったんですかー(笑)。しかもこれに電圧を掛けると、また素直に別の方向に並び直すのだそうです。これらの性質と「偏光」を活用することで、液晶画面にしているようです。しかもなんと、この液晶技術は、将来は「レンズの焦点距離を「レンズの形態を変化すること無し」に変化させる」ことにも応用できるようで、白内障治療にも役立つ可能性があるとか。
その他にも、「分子膜に境界脂質を埋め込んだダミー細胞をガン細胞の近くに置くと、ガン細胞の膜タンパク質がダミーに移動してくるのです。膜タンパク質を失ったガン細胞は、生命活動の担い手を失ったことになります(=ガン細胞が死ぬ)」という方法でガン治療を行うとか、このダミー細胞をガンワクチンとして使う研究が進んでいるとか、興味深い最新情報がいっぱいでした。
一般人にも分かりやすい解説で、すごく参考になる本だったのですが、個人的には少しだけ残念なことも(汗)。最新の知見がどんどん出てくる激動中の研究分野のせいか、「結論」的な解説が足りなかったような気がします。特に「Chapter.1 分子集合体とは」では、「分子集合体と言うのは、その名の通り、たくさんの分子が集合したものです。地球のほとんど全ての物質は分子からできています。つまり、分子の集合体です。しかし、このような普通の物質を分子集合体と言うことはありません。分子集合体と言うには、何か特別な性質があるからでしょう。それがどのような性質なのかを理解するためには、分子の構造や性質を理解する必要があります。」という文章で始まるのに、結局、この章の中で「分子集合体とは」にきちんと対応する「まとめの解説」はないまま次章に進んでいき……最後まで「まとめの解説」は特になかったような気がします。つまり……この本の全体に書かれているような性質を持つものを「分子集合体」と呼ぶのかなーと、個人的には納得しましたが……もう少し辞書的な明快な説明も欲しかったとも感じました。
それでも「分子集合体の科学」に関する幅広い分かりやすい説明があったので、とても勉強になったし、将来、私たちの生活にすごく役立ちそうな研究分野なので、今後も注目していきたいと思わされました。かなり難しそうな分野の本ですが、イラストがあるだけでなく、大きな文字で全体にあっさり書いてある(文章が長くない)ので、意外にも(?)どんどん読めると思います。読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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