『龍のファンタジー』1999/10
カール シューカー (著), Karl Shuker (原著), 別宮 貞徳 (翻訳)

 蛇龍、龍もどきから八岐大蛇まで、神話の国に棲むありとあらゆる龍について解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 蛇龍(ラムトン長虫のたたり、ギーヴルとガルグイユ 他)
第2章 龍もどき(リントヴルムの王の花嫁、ジークフリートとファーヴニル退治 他)
第3章 古典的な龍(聖ゲオルギウスと龍、ウォントリーの龍、戸惑いのうちに死す 他)
第4章 空飛ぶ龍(アンピプテラと有翼の蛇、ケツァルコアトル、メキシコの羽毛のある蛇神 他)
第5章 ネオ・ドラゴン(バシリスクからコカトリスへ、タラスクの恐怖 他)
   *
 勇猛な騎士ゲオルギウスの槍に刺されて息絶えた翼に眼状紋のある龍、幾重にもとぐろを巻く長大無辺の海の支配者レヴィヤタン、ジークフリートの剣に倒れた龍のファーヴニルと狡猾の小人レギン、天照大神の弟、須佐之男命が立ち向かった八岐大蛇、きらめく虹色の羽毛にのって天に舞いあがる多色夢幻の獣ケツァルコアトル……神話や民話に出てくる数多くの龍の物語が収録されている「龍のファンタジー」集です。
 神話(民話)とともに、その龍のイラストも掲載されているので、どんな龍だったのかをイメージしやすいと思います(ただし古い絵や写真などが多く、解像度もあまり良くありませんが……)。世界にはいろんなタイプの龍がいるんだなーと、とても興味深く読みました。ファンタジーを描くとき、「人間の力が遠く及ばないほどの強敵」を出したい時に、つい龍を出したくなると思いますが、龍のディテールを想像(創造)するときに、この本のような「代表的な龍の姿と物語集」があると、とても便利だと思います。
 世界中の龍とはいっても西洋の龍がとても多く、中国や日本にも龍はいるのになーと残念に思っていたら、「第4章 空飛ぶ龍」になって、ようやく中国の龍と日本の龍(八岐大蛇)が登場してきました。
「東洋の龍はタイプがさまざまで、すべて西洋のものとは多くの点で根本的に異なる」そうです。
「そのもっとも大きな相違は、翼がなくても飛べる能力、人間をふくめ数知れぬものに身をやつすことができる変身能力、概して性善良で人間との関係も良好なこと、そして人間側からもこれら天空に棲む龍に敬意を抱いていること、などである。現に、東洋のもっとも古い、由緒ある家系は、龍の子孫だと主張しているところが少なくない。」
 ……確かに。西洋の龍(竜)は、人間と敵対していて最終的に英雄に討伐されるものが多いような気がしますが、東洋の龍は、自然災害のような巨大な災害をもたらすこともあるけど、干ばつのときに雨の恵みをもたらしてくれるとか、「超自然パワー」を持っている善悪両方を併せ持つ(というか善悪を超えている)存在のように感じます。
 なかでも中国の龍は「孵化から成獣になるまで、一連の形変態をとげるが、この間じつに三千年の長きにわたる」そうで、色美しい宝石のような卵の形から翼のある龍(応龍)へと、何度も形態変化しながら成長するのです。この記事はすごく興味津々で読んだのですが、中国の龍に関してはたったの5ページでした(ちょっと残念)。
 ちなみに日本の龍に関しては、八岐大蛇や龍鳥など6ページ。とても興味深かったのは、日本の龍にも「敵」がいたことを知ったこと。
「日本の龍は地位が高く、しばしば神の位にあるにもかかわらず、敵がいないわけではない。このなかでもっとも厄介なのは狐霊で、いたずらのしかえしに龍が襲ってこないよう、不浄のものを持ち歩くという。」
 ……マジか……龍は無敵なのかと思ってたけど……。しかもこの狐霊、「地上に暮らして千年たつと、悪行をやめる。そのとき絹のような毛皮は白か黄金に代わり、九本の立派な尾をはやして天にのぼっていく。いぜん魔術にたけてはいるが、もはや邪悪なところはなくなり、罪なき者として地上の農業を指導したり、援助したりする。」のだとか! 人気漫画『NARUTO』で有名になった「九尾の狐」って、そんな奴だったのか……(笑)。
 こんな感じで、神話の国に棲む龍について総合的に解説してくれる本でした。対象となる龍の種類が多いので、それぞれ簡単な解説なのですが、創作用の資料に使う場合は、むしろその方が想像力を刺激してくれるような気がします。読んでみてください。
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