『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』2017/7/19
山口 周 (著)
複雑化・曖昧化が増加している現代の経営は、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた「サイエンス重視の意思決定」では足りず、「アート(感性)」が必要だということを教えてくれる本です。
正直に言って、この本のタイトル『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を見た時すぐに感じたのは、美意識? アート? ……これからの経営には「美術の教養」が必要だってこと? ……こんなに変化が急激で、経営に困難な舵取りが求められている時代に、なんか、ちょっとピント外れなような……という気持ち。でも読んでみたら、ピント外れだったのは私の方だったのでした……(汗)。
「美意識」が必要なのは、世界がVUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)になるなか、従来のクリティカルシンキング的手法では、限界があるからだそうです。なぜならクリティカルシンキング等のスキルは、問題をシンプルな因果関係の構造として捉えることで、解決のアプローチを創出するという考え方に立脚しているので、複雑化・曖昧化している現状に合わなくなっているから。
「論理的にシロクロのはっきりつかない問題について答えを出さなければならないとき、最終的に頼れるのは個人の『美意識』しかない」ということになります。」
だから、デザイン思考のような「美意識」が必要になるのだとか。
「因果関係を静的に捉えて問題を発生させる根っこを抑えにいくファクトベースコンサルティングに対して、デザイン思考はもっと動的であり、最初から解を捉えにいくということになります。厳密な因果関係の整理は、要素の変化が絶え間ない世界ではあまり意味をなさない。直覚的に把握される「解」を試してみて、試行錯誤を繰り返しながら、最善の解答に至ろうとするわけです。」
なるほど、そういうこと……それで「美意識」を鍛える必要があるのか……。
でも……なぜ「美意識」を? と次にわいてきた疑問にも答えがありました。
「絵を描くことはリーダーに求められる様々な認識能力を高めることがわかっており、実際に自ら芸術的な趣味を実践している人ほど、知的パフォーマンスが高いという統計結果がある。」
「デザインと経営には本質的な共通点がある。」
「経営という営みの本質が「選択を捨象」であることを、しっかりと理解することが必要」
……世界があまりにも不確実化・複雑化している現代では、しっかりした「分析」をするためには時間がかかりすぎる上に、「科学的判断」では「全員が同じ正解」にたどり着くことになり、結果的に激しい競争から逃れられなくなってしまう、だからこそ「直感」を鍛えて、スピード感をもって「正しい方向」を見出す力をつけようということのようでした。
「美意識」というのは、「美術品の美しさ」を鑑賞する力だけではなく、ビジョンの美意識、行動規範の美意識、経営戦略の美意識、表現の美意識など、「社会的な美」も含んでいるようです。
そしてこの「美意識」を鍛えるためには、アート鑑賞や芸術的な趣味を持つこと以外にも、マインドフルネス、文学や詩を鑑賞する、哲学に親しむなどの方法があることが紹介されていました。
この本を読んで、特に深く考えさせられたのは、「システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している」現状に、どう対応すべきなのかということ。
こういう状況だと、「みんなが気づいていないうちにルール化されていない隙をついて、美味しい部分を奪い取ろう」という「ずる賢い」人だけが勝者になって、「気がつかなかった人は愚かなのだから損をして当然」という残念な世界になってしまいそうな感じですが、こういうやり方は「美意識」が足りないようです。
「このような世界において、法律で明文化されているかどうかだけを判断の基準として用いる実定法主義的な考え方は危険です。なぜ危険かというと、ただ単に「違法ではない」という理由で、倫理を大きく踏み外してしまった場合、後出しジャンケンで違法とされてしまう可能性があるからです。」
「大きな権力を持ち、他者の人生を左右する立場にある人物は、「美意識に基づいた自己規範」を身に付ける必要がある。そのような影響力のある人物こそ、「法律的にはギリギリOK」という一線とは別の、より普遍的なルールでもって自らの能力を制御しなければならないからです。」
……確かに、そうだと思います。「法的、倫理的にギリギリなグレーゾーン」で自分勝手な方法で利益を得たとしても、それは一時的なもので、長い目で見ると結局は、「違法すれすれのことを平気で行う会社(や人間)」という烙印を押され、周囲からの支持を失ってしまうことになるのではないでしょうか。
経営に役立つ「美意識」を鍛える……よりよい経営をするために、どうすればいいかを考えている方は、ぜひ読んでみてください。
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