『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて:身近なトピックで学ぶ基礎構造から最先端研究まで』2018/6/25
キャット・アーニー (著), 長谷川知子 (監修, 翻訳), 桐谷知未 (翻訳)

 遺伝子・DNAの基本構造から、「iPS細胞」「エピジェネティクス」「マイクロバイオーム」「3Dプリンターによる移植用臓器印刷」などの最新の話題まで、総合的に解説してくれる本です。
 ちなみに、この中の「3Dプリンターによる移植用臓器印刷」(!)という刺激的な言葉は、「個別化したiPS細胞からつくった移植提供用臓器を3Dプリンターで印刷する」ものですが、「この種の個別化手法はとても高価になりそうなので、科学者たちは現在、多くの人の遺伝子構成に広く合致するiPS細胞のライブラリー構築に取り組んでいる」のだとか。一般人がすぐに利用できる方法ではなさそうですが、未来の医療の進歩に期待がもてそうですね!
 この本には、このような最新技術の紹介もありますが、個人的にとても参考になったのは、冒頭の「はじめに」で遺伝子DNAを設計図ではなく、次のように料理のレシピにたとえて説明してくれた部分。
「遺伝子は、整然とした電気回路を伴うコンピュータコードなどではなく、むしろ料理のレシピに近い。絶えず変化している分子で満たされ、柔軟性を持たせるためのたくさんのオプションがあり、細胞がつくらなくてはならないさまざまな物質によっても違ってくる生きた存在なのだ。遺伝子はこの絶え間ない変化のなかでなんとかして、細胞が確実にきちんと機能し続けるよう、適切な時に適切な場所でスイッチを入れたり切ったりする必要がある。」
 ……そうなんですか。遺伝子は私が思っていた以上に柔軟に働いているようで、「設計図」のように「決められたことは変えられない」厳密な働きをしているのかと思いきや、環境の変化に応じて、その都度対応を変えることもあるようです。そういう意味で、「料理のレシピ」っていうのは良い表現だなーと感心させられました。

 そして、とても期待させられたのが、最近の遺伝子研究のおかげで、いろんな薬が開発されていること。
「今日では、命を救う多くの薬のおかげで、HIV感染は、死の宣告ではなく生存期間が何十年もある、慢性の疾患に変わった。その薬の一つがマラビロクで、シーエルセントリという商標名でも知られる。CCR5でつくられるタンパク質に貼りついて、HIVが免疫細胞に感染するのを防ぐこの薬は、クローン氏の抵抗力のある遺伝子研究から、直接開発されたものだ。スティーヴン・クローンのような人たちは、遺伝的スーパーヒーローだ。彼らのCCR5遺伝子の多様性は、まるで特殊能力のように働き、大多数の人が感染するウイルスから身を守ってくれる。現在、大規模なDNAシークエンシングによって、他にもたくさんのスーパーヒーローがいることが明らかになっている。彼らはウイルス感染の脅威を撃退できるだけでなく、自らの細胞内の病因的遺伝子による疾患への抵抗力もある。」
 病気になりにくい「遺伝的スーパーヒーロー」を研究することで、他の人も病気になりにくい能力を得ることが出来るようになるなら、本当に素晴らしいですね!
 他にも「RNA干渉」など、今後の医療を進歩させそうな技術をたくさん見ることが出来ました。
「RNA干渉は生物学者にとって、驚くほど役立つツールであることがわかった。それぞれのsiRNAはたった21文字の長さで、化学反応を利用して試験管のなかでつくれる。したがって理論的には、どんな細胞型にあるどんな遺伝子のスイッチでも切る(ノックダウンする)ことが可能になる。この技術のおかげで、実験室で培養した細胞でも、線虫やショウジョウバエなどの小さな生物でも、遺伝子をノックダウンさせたらどうなるかを容易に手早く観察できるようになった。その技術のすばらしい力に着目した製薬会社は、多様な病気に対するRNA干渉を基盤にした治療法の開発に、大きな関心を寄せている。」
 遺伝子の研究は、未来の医療を大きく進歩させてくれそうです。今後の私たちの生活(健康)にも密接に関わってきそうな遺伝子について興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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