『これからの微生物学――マイクロバイオータからCRISPRへ』2019/3/23
パスカル・コサール (著), 矢倉 英隆 (翻訳)
微生物学の基礎から最新研究成果までを概説し、これからの微生物学を考察する本です。
少し前までは、「細菌=病原菌または黴菌」というイメージが強くて、健康のためには「清潔=除菌」が大切という気がしていましたが、実はそういう考え方自体が誤りだったようで、最近は「人体に常在する無数の細菌は、ヒトの健康に欠かせない」という認識に変わってきています。(なお、数年前から、腸などの人体内に、ヒトの共生菌がヒトの細胞数の10倍以上いるという記述が多数ありますが、この本によると、現在では、「ヒトの共生菌はヒトの細胞とほぼ同数である」と再評価されているようです)。
現在、特に脚光を浴びている「CRISPR Cas9」という画期的ゲノム編集技術が細菌の研究から始まったように、細菌研究はとどまるところを知らない急進展を遂げているのです。
この本は、そんな微生物学の最新研究を概説してくれます。
なかでも興味深かったのは、「第7章 細菌相互のコミュニケーション――化学言語とクオラムセンシング」と「第8章 細菌が殺し合うとき」。なんと、細菌は仲間同士で会話をするのだそうです! 自分たちの密度を把握して、勝算が見込める数があるときにのみ病原性を発揮するとか、細菌同士で殺しあうこともあるのだとか……。
「バイオフィルムやすべての細菌の集合の中では、細菌は相互に連絡を取り合っている。細菌は話し合っているのである。その化学言語は、細菌が環境中に放出する複雑な分子からできている。これらの分子を環境中に放出すると同時に細菌は、細胞表面あるいは細胞質内に分布するセンサーによって自分たちの密度を見積もることができる。」
「最近、一つの細菌種が別の種を殺すことができるクオラムセンシング・システムの存在が報告された。より正確には、最初の種が高密度であれば、二つ目の種を自殺に追い込むことができるシステムである。」
「細菌はシグナル伝達分子を内部に取り込むことが出来る(中略)。また、これらの細菌はときに同種菌に由来する遺伝物質を獲得することがある。これは遺伝子の伝播である。」
「ある細菌は自らがいる環境中に「バクテリオシン」という名で総称されるいく種類もの特異的な毒素を多数放出し、別の細菌を殺すことが知られている。バクテリオシンを産生する細菌は、自殺や同類殺しを阻害する免疫タンパク質で守られている。バクテリオシン以外にも細菌が殺し合うメカニズムがあり、それには実際に攻撃し合う細菌間の接触が必要になる。」
目に見えないほど小さな微生物も、いろんな戦略を駆使して生きているんですね!
とても興味深い本でした。ただし、この本は、専門家を対象にしている本のようで、専門用語がどんどん出てきて、素人にはよく分からない部分も結構あったのですが……(汗)。
未来の病気治療にとても期待が感じられるプロバイオティクスやCRISPRなど、微生物学は今後もどんどん重要性を増していくと思います。医学や生物学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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