『不老不死のクラゲの秘密』2018/12/21
久保田 信 (著)
今、生物界で最も注目を集める「死なないクラゲ」ベニクラゲのことを教えてくれる本です。
人類の永遠のテーマとされる「不老不死」。世界中に不老不死の伝説は存在しますが、これだけ科学技術が進んだ現在でも、その夢はまだ実現できていません。ところがクラゲの仲間には、その夢を実現しちゃったものがいるそうです。それは世界各地に散らばり、日本近海でも棲息している「ベニクラゲ」。最大でも直径1センチほどの小さなクラゲです(巻頭にカラー写真があるほか、本文にもイラストや写真で紹介されています)。このクラゲの特徴について、久保田さんは次のように言っています。
「では、ベニクラゲは何が特別なのか。それは、成熟したクラゲからも、若いクラゲからも、そして老化したクラゲからさえ、ポリプに戻るルートがあることだ。いってみれば、蝶が芋虫になるのである。通常、年老いたおとなのクラゲは、泳げなくなって海底に沈んでいく。クラゲの一番の特徴であるゼラチン質の部分が退化し、触手は消え、肉団子のようなシンプルな形になる。その後、すべてが海中に溶け去ってしまうのである。しかし、ベニクラゲは肉団子状態になると、キチン質の膜で体を覆う。そして、海底の固いものにくっついて、再びポリプになっていくのである。まさに生活史を逆転させる「若返り」だ。」
なお、クラゲなどの刺胞動物門の動物は、たいていポリプとクラゲの異なる体のつくりを持っていて、「ポリプは水の底で暮らせる形で、クラゲは浮遊・遊泳するための形である。」だそうです。
そしてクラゲ(とポリプ)には、次のような驚異的な特徴があるようです。
「クラゲ世代は無性生殖を基本的にしない。だが、ポリプは、どの種もみな出芽や分裂といった無性生殖によって増殖する。クローン生物たるゆえんだ。しかも、クラゲは数か月から1年で寿命が尽きるのに、ポリプは極端に長く生きられる。ひょっとしたらもう永遠の命を授かっているのかもしれない。ポリプ世代として生き続けるサンゴが、何万年も無性生殖で生きているのはよく知られている通りだ。つまり、クラゲはポリプ世代をつくり出して寿命を延ばし、無性生殖で分裂をくり返すことで、ほぼ不死に近い生き方を獲得したというわけだ。」
クラゲになった時には、海を漂いながら異なる遺伝子を持った子孫をいろいろな場所に残すことができて、ポリプになった時はクローンを無限につくり出せる……海の中を頼りなさそうにふよふよ漂っているクラゲには、そんな驚異的な能力があったんですね!
しかもベニクラゲは、老いてなおポリプに戻って、人生ならぬクラゲ生をやり直せるのだそうです! 凄いですね……。
そんな凄い生き物が本当に存在するなら、海じゅうに「ベニクラゲ」が溢れていてもおかしくないような気がしますが、どうやら「若返り」の条件は「苛酷」なようです。久保田さんの研究では、「若返る」ことの出来たクラゲは、「再生するのが難しいくらい重大なダメージを負ってしまった」ものが多く、それ以外でも「未熟児」とか「環境激変(淡水化)」など過大なストレスにさらされたものばかりのようでした。
逆境にあうと火事場の馬鹿力を発揮するものがいる……人間にもいますが、やっぱりクラゲにもいるのか(笑)。生物って、凄いですね☆
しかもベニクラゲは、テロメア(細胞分裂のたびに短くなっていき、最終的に分裂できなくなる印のようなもの)を修復できる能力があるのかもしれないのだとか。
「ベニクラゲの染色体にも、テロメアがある。しかし、ベニクラゲはどうやら無制限に細胞を分裂させることができるらしい。ここから推測されるのは、テロメアを修復させ、常に同じ長さに保つようにするシステムが、ベニクラゲの内部に確立されているのだろうということである。分裂ごとに短くなっていくテロメアは、酵素などで再生させることができるのかもしれない。この特別なシステムを作動させるために、遺伝情報にまで働きかけて若いときの遺伝子を読みなおし、細胞を変化させるようなしくみが整えられている可能性もある。そして、そのしくみが働くのは、わたしが観察してきたように、「命の危険」にさらされたときなのだろう。」
こんなベニクラゲの驚異的な能力を、人間も利用できるようになるのでしょうか? 久保田さんは、可能かもしれないと思っているようです。人間とベニクラゲは、遺伝子構成がそれほど違わないので。もっとも人間の場合は、クローンやiPS細胞、ゲノム編集など、ベニクラゲとは違う方法で、不老不死の能力を獲得する可能性の方が高いかもしれません。
生物の不思議を思い知らされる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみて下さい。
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