『フロスト気質 上』2008/7/30
R.D. ウィングフィールド (著), R.D. Wingfield (原著), 芹澤 恵 (翻訳)
『フロスト気質 下』2008/7/30
R.D. ウィングフィールド (著), R.D. Wingfield (原著), 芹澤 恵 (翻訳)
ハロウィーンの夜、ゴミの山から少年の死体が……休暇の途中でデントン署に立ち寄ったフロスト警部は、ぼやきながらも結局は事件解決に乗り出すことに……大人気の警察ミステリー、フロスト警部シリーズ第4弾です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
今回のフロスト警部の「相棒」は一味違います。なんとうら若き美人警察官のモード部長刑事、女性ながらも虎視眈々と出世を狙っている頑張り屋なのです。彼女は、とある事件のために幹部警察官が少なくなってしまったデントン署で手柄を立てることを狙っていたのですが、フロスト警部の臨時の「相棒」として、元デントン署の警察官だったキャシディ警部代行がやってきたために、ひそかな野望をくじかれることになります。
しかしこの臨時「相棒」キャシディ警部代行ってヤツが……出世亡者の嫌な男! マレット署長よりムカつく奴なんていないだろうと思っていたのですが……甘かった。いくら暗い過去があってフロスト警部に個人的恨みを抱いていたからって、こんな手柄横取りイヤミ野郎が存在していいのでしょうか(プンプン)。
さて、今回も人手不足のデントン署を、難事件が次々に襲ってきます。少年の死体、行方不明の少年、連続幼児刺傷事件、15歳の少女の誘拐事件に、謎の腐乱死体まで……もう、これでもかと言わんばかり。対するフロスト警部+モード部長刑事+いつものデントン署の面々+検視官に鑑識チーム+その他が、愚痴をこぼしつつも不眠不休で事件解決に奮闘します。
2分冊の合計が900ページぐらいある物凄く長い小説なのですが、多くの事件が続々発生してくれるので、だれる暇もなく読みふけるしかありません。不眠不休の働きを強いられるのは、フロスト警部だけでなく、読者もなのです(苦笑)。
しかもデントン署内の全事件を実質的に仕切っているようなフロスト警部だからこそ、多くの事件がパズルのようにつながりを持っていきます。ある事件のための地道な調査(ドブ浚いとか)が、他の事件の解決につながっていく……あまりにも見事なその構成力に、頭がくらくらします。作家のウィングフィールドさん、やっぱり神のような手際の持ち主だ……。
犯罪者たちが必死に絞った知恵の、ほんの隙間からこぼれてくるヒントをつかみ取る手口、他の事件の手がかりからの微かな匂いをつかみ取る嗅覚……今回もダメな(?)警察官フロスト警部の直観が冴えわたります。なのに、なんと今回はその上をいく知能犯が、フロスト警部に尻尾の端っこすら掴ませてくれません。
次々と発生する悲惨な事件、苦悩し疲弊する警官たち、暗い状況のなかでも空気を読まず炸裂するフロスト警部の下品なユーモアだけが、それをわずかに救ってくれる……要するに、いつも通りの緊迫した展開と(下品な)ユーモア感覚に溢れていて楽しませてくれましたが……セクハラは絶対にいかんよ! なんだかフロスト警部の好感度が下がりまくったよ!
……それでも今回は、みんなの残業代にまつわる事務処理ミスの話はなかったので、その点が救いでした。ワーカホリックのフロスト警部はともかく、頑張って仕事している他の真面目な警察官や鑑識さんたちが報われないんじゃ、あんまりですから。
それにしても、どう考えても、この1冊分だけで、数冊分書けるだけのネタがぎっしり詰まっています。正直言って疲れを覚えるほど、すごく読み応えのある小説です(汗)。
なのに……くたくたになって読み終わった瞬間、すぐに「次が読みたい!」と思わされます。これって、本当に凄いことですよね!
フロスト警部の相棒たちは、いい味のキャラクターばかりなので、彼らにまた会いたいと思ってしまうのに……いつも「使い捨て」なのがとても残念です。もっとも、この作品をTVや映画シリーズにするとしたら、毎回変わる「相棒」に、高いギャラの主役級俳優を使うことで、魅力や新鮮味を高めることが出来るので、それを考慮しているのだとは思いますが……でも、もう一度会いたいような人たちばかりなんですよね。今後の作品では、「彼らのその後」を読むことが出来るのでしょうか?
毎回毎回、次を熱望してしまうフロスト警部シリーズ。お勧めです☆
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