『冬のフロスト 上』2013/6/29
R・D・ウィングフィールド (著), 芹澤 恵 (翻訳)
『冬のフロスト 下』2013/6/29
R・D・ウィングフィールド (著), 芹澤 恵 (翻訳)

 寒風が肌を刺す一月も、デントン警察署は、殺人、窃盗と犯罪見本市状態でてんやわんや(つまり、いつも通り(笑))。多忙さにへとへとになりながらも、冴えない中年男・フロスト警部の推理が冴えわたる(?)大人気警察小説第五弾です☆
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 寒風が肌を刺す1月、デントン署管内では、幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗にフーリガンの一団、「怪盗枕カヴァー(侵入先の枕カヴァーに貴金属を入れて盗んでいく窃盗犯)」といった傍迷惑な連中が好き勝手に暴れる始末。
 そして今回も人手不足。その理由はまたもやマレット署長の「ええかっこしい」。麻薬摘発のための合同捜査に、署員十名を派遣してしまったからです。ということで、今回もフロスト警部がたった一人で奮闘することに。
 ……ん? たった一人? いつもは相棒と二人で、じゃなかったっけ?
 そうなんです。今回も相棒はいます。それもフロスト史上最悪の相棒が。モーガン刑事という青年なのですが、これがとことん無能な上に無類の女好き(でもかなりのハンサムのようで、女にもてまくっているようです)。仕事では、ドジをこれでもかと言わんばかりに踏みまくっています。
 さすがのフロスト警部も彼に「ひとつはっきりさせておこう。わがデントン警察署のぐうたらサボリスト要員は定員一名で、その一名ってのはこのおれだ。わかったか?」と言い放つのですが、モーガン刑事は、その場ではしゅんとした顔でうなだれて、「はい、すみません、親父(おやっ)さん」なんて応えるのに、実行は全然伴いません。読み進めていくうちに、どんどん腹が立ってきて、ひょっとして、こいつが連続殺人事件の犯人なんじゃないか? とまで思えてきてしまいました。
 ……いや、もちろん推理小説で「ドジな警察官の犯人」なんているわけがないと分かってはいるんですけどね(警察官が犯人の場合、恐ろしいほど狡猾なのが定番)。でも、もうシリーズ五作目でもあるし、タブーに挑戦! なのかもしれないと……いや、どう見ても、ただの間抜けな役立たず……いや、もしかして……。
 イラつく読者をものともせず、フロスト警部は「若いころの自分」を思い出してしまうのか、モーガン刑事のドジっぷりをとことん庇ってしまうのです。……まあ言動は下品で見た目もだらしないフロスト警部ですが、本質的には部下にも、時には犯罪者にすら優しくて、正義感に溢れ、ときどき神のような直観力を発揮する人ですから……。
 さて、今回のデントン警察署にも、雪崩のように次々と事件が襲い掛かってきます。そして今回の相棒があまりにも無能なせいか、どの事件もなかなか解決せず、経費とマレット署長からの小言とイヤミばかりが嵩んでいきます(涙)。
 そんななか、連続殺人事件の犯人が、タクシー無線の傍受をしている可能性に気づいたフロスト警部は、部下の二人の美人女性警官を囮に使う作戦を実行しますが、そのうちの一人(なんと前回の相棒・モード刑事!)が、浚われて行方不明になってしまうのです(涙)。
 果たして彼女の運命は……はらはら、じたばた、どたばたが満載の警察小説。今回も、普通の警察小説の数冊分のエピソードが盛り込まれている感じの充実した読み応え、悲惨で殺伐とした空気を和らげてくれる(?)フロスト警部の下品なジョーク(パワーアップしてるかも)に溢れています。ぜひ読んでみてください。
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