『クリスマスのフロスト』1994/9/21
R.D ウィングフィールド (著), R.D. Wingfield (原著), 芹澤 恵 (翻訳)

 ロンドンから70マイルの田舎町のデントンでは、もうすぐクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがります。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物……続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げるユーモア・ミステリー(推理小説)です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 物語冒頭、いきなり主人公のフロスト警部が瀕死の状態で登場します。しかも殺人未遂の疑いをかけられて……。
 いつかは、こういう状況になるということが分かっているという不利な条件(?)で始まる警察ミステリー。ミステリーってのは先が読めないからこそ、はらはら出来るのに、こんな出だしで大丈夫か? と思いながら読み始めると……フロスト警部のあまりのキャラの立ちっぷりに、どんどん惹きつけられてしまいます(笑)。いやもう、下品なユーモアセンスに満ちたワーカホリックの警察官、凄腕なんだか、そうじゃないのかも、よく分からないのですが、とにかく事務処理は苦手で、いろんな面で、そうとういい加減な奴です。
 しかもその下に、心ならずも配属されてしまうのが、警察長を伯父にもつ超エリートの若者クライヴ。この若者がまた、いい味だしているのです。上昇志向のある、ちょっと嫌味なところもある若者なのですが、洋服屋の薄暗い店内で選んだ上品なはずの背広は、警察署内では派手で浮きまくり、デントンの田舎警官どもは、伯父が偉いやつだからって、へつらったりしないぞという気骨のあるところを見せつけようと(?)、彼にむしろ辛くあたります。フロスト警部に振り回されっぱなしで、名家出身のはずなのに、まったく優遇されるどころか冷遇されるばかりのクライブが、だんだん気の毒になってしまうのです……。
 しかもクリスマス間近だというのに、田舎町デントンでは不思議な事件や悲惨な事件がどんどん起こって、警察官たちは、きりきり舞いさせられます。それでも楽しくどんどん読み進められるのは、フロスト警部とクライブ、その他の警察官たちが交わす会話が、すごく自然で面白いから。なかでもフロスト警部と警察官たちのやり取りは、本当に仲がいい少年たちの会話のようで、フロストがいかに他の警察官に愛されているかが、説明ぬきで読者に分かっていきます。……本当に描写力のある作家だなーと感心させられましたが、なんとウィングフィールドさんは、この作品が小説としては処女作だったのでした! もっとも実は脚本家としてはベテランだったようで、だからこそ「会話力」が抜群なのでしょう。
 この作品は構成力も抜群で、海外の人気長編ドラマの定番ともいえる構成、なかなか決できない大きな謎で全体を引っ張りながら、そこに小さな謎を絡めて時々それを解決するという読者(視聴者)を夢中にさせる仕組みが、全体に巧みに張り巡らされています。いったん読み始めたが最後、次はどうなるの? と先を読み進めずにいられません。
 ホームズやルパンを夢中で読んでいた子どもの頃からの推理小説ファンですが、この小説は今まで読んだ推理小説の中でも、最高に面白いユーモア・ミステリーの一つだということは間違いありません。もっとも、フロスト警部のユーモアがもう少し上品だったなら、もっと良かったのになーと思わないでもないですが……(汗)。
 次回作を読まないではいられない、超傑作ユーモア・ミステリー。だんぜんお勧めです☆
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