『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』2018/4/18
R・ダグラス・フィールズ (著), 小西 史朗 (監修), 小松 佳代子 (翻訳)
脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア細胞」は、電気活動を行うニューロンの間を埋める単なる梱包材とみなされ、長らく軽視されてきました。でも近年の研究で、グリア細胞は、ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきたそうです……『もうひとつの脳』グリア細胞に関する研究の最前線を教えてくれる本です。
脳研究のなかで軽視されてきた「グリア細胞」に注目が集まったきっかけの一つは、天才・アインシュタインの脳組織サンプルの分析結果でした。
「天才の脳のニューロンも、ごく普通の人の脳から採取したニューロンと見分けがつかなかった。さらに、アインシュタインの独創性に富んだ大脳皮質にあるニューロンの数も、平均すると、非凡な創造力で知られているわけではない人たちと変わりなかった。しかし、データにはひとつだけ違いがあった。ニューロンではない細胞の数が、脳の四領域すべてにおいて、アインシュタインの脳では群を抜いて多かったのだ。」
……このニューロンではない細胞こそ、「グリア細胞」なのです。
脳や人工知能に興味がある私ですが、「グリア細胞」のことは、あまり知りませんでした(汗)。「2章 脳の中を覗く ― 脳を構成する細胞群」には次の記述がありました。
「このシナプス伝達の過程には、きわめて重要な側面がもう一つある。それは清掃だ。シナプス湾の神経伝達物質が速やかに片付けられて、次のメッセージを送り出せるようにならなければ、シナプスを介したコミュニケーションはうまくいかない。以前から、シナプス間隙に隣接しているグリアが、この清掃作業を行っていることが知られている。グリアの細胞膜にあるタンパク質分子が、シナプス間隙から神経伝達物質を汲み出して、アストロサイトへ取り込み、そこで伝達物質が再処理されているのだ。」
「現在のところ、神経組織にはニューロンに加えて、大きく四種類に分類されるグリアが存在することがわかっている。そのうちの二種類、すなわち末梢神経にあるシュワン細胞、脳やせき髄に見られるオリゴデンドロサイトは、軸索の周囲にミエリンという絶縁体を形成する。また脳と脊髄の全域に、アストロサイトとミクログリアというグリアも存在する。」
さらに「第2部 健康と病気におけるグリア」には、次のような記述が。
「パーキンソン病から麻痺に至る幅広い神経疾患の治療に、幹細胞がきわめて有望であることは広く認知されているが、ここでもグリアが主役に躍り出ている。成熟ニューロンは細胞分裂ができず、傷害や病気により損傷すると、原則として取り換えが利かない。これとは対照的に、グリアは脳の傷害に応答して、細胞分裂を開始し、損傷部位へ移動していける。グリアはそこで、傷を治し、病気から脳を守り、ニューロンが健康を取り戻せるよう看病する。また、損傷を受けた神経線維の再伸長を誘導して、ニューロン間やニューロンと筋肉の間の適正なコミュニケーションを回復させてもいる。また、最近の研究は、未成熟なグリアに幹細胞のような働きができることや、成熟したアストロサイトが、成人脳では休眠状態にある幹細胞を刺激して、代替のニューロンやグリアへと分化させられることを明らかにしている。」
「その一方、グリアは病気の原因ともなる。というのも、グリアは感染性微生物の標的になることが多いからだ。(中略)グリアはまた、ニューロンが衰弱したり死滅したりする神経変性疾患にも密接に関係している。」
……グリア細胞は、ニューロンの働きの支援をしたり、脳の健康を守ったりと、さまざまな働きをしているんですね!
それだけでなく、今まで陰の存在だった「グリア細胞」は、ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることが分かってきたそうです。……なんだか、わくわくしてきますね!
とはいえグリア細胞に関する研究は始まったばかりで、不明なこともまだまだ多いのだとか。この本はそんなグリア細胞に関する解説や、最新研究について分かりやすく教えてくれます。研究の方法についても、かなり詳しい説明があるので、脳科学の学習・研究者の方にとってもとても参考になると思います。
『もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」』。520ページもあって読むのは大変でしたが(汗)、あまりにも興味深い内容が満載で、どんどん読み進めることが出来ました。グリア細胞の研究が進むことによって、今後、脳疾患の治癒や、脳の潜在能力の増強などが期待できるかもしれません。脳科学に興味のある方はぜひ読んでみてください☆
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