『深海――極限の世界 生命と地球の謎に迫る』2019/5/16
藤倉 克則 (著), 木村 純一 (著), 海洋研究開発機構 (著)
深海という特殊な環境の生態系、地球の動きのカギを握る海洋プレート、地球温暖化・海洋酸性化の仕組みなど、深海について総合的に解説してくれる本です。(冒頭8ページには、深海関係の貴重なカラー写真も掲載されています。)
「深海」とは、「(海洋生物学では)水深200mよりも深い海」のことを言うそうです。人間がアクセスするのが最も困難な場所の一つですが、最近はかなり調査が進んできて、地震を含めた地球の動きや、生命進化の過程を知るためにも、重要な場所だということが分かってきました。
この本の第1章では、光も届かず、エネルギー源も少ないと思われる深海の生物について、有人潜水調査船「しんかい6500」がたどった水深6300mでの調査の一日を、時間を追って紹介してくれます。自分ではめったに体験できないことなので、興味津々でした。
真っ暗で冷たい「深海」も、生物が生息できないほど超過酷な環境ではないようです。なんと「ほぼすべての海底下数百㎝までの堆積物中に、実に1 立方センチメートル あたり100万~10億細胞もの微生物が見つかったのです。」なのだとか! 「海底下に存在する岩の中にも生命が存在するということも最近わかってきました。」という記述もあって、生命の逞しさを痛感させられました。
深海には、水素・硫化水素・メタンなどを主要なエネルギー源とする化学合成生態系の生物が、いっぱいいるようです。そして深海の熱水域に多く生息している生物は、「共生」することで過酷な環境に対応しているのだとか。
「化学合成生態系を構成する動物は、1~2種類の動物が高い密度と生物量で存在し、全群集の7割を占めます。その多くの動物種が化学合成細菌と共生することが最大の特徴です。」
「熱水域は、熱水の組成などが変動し、周囲の海水と激しく混ざり合い、また潮流によって拡散するため、物理的・化学的に激しく変化します。西大西洋の熱水域に生息するシンカイヒバリガイ類は、異なるエネルギー源を利用する硫黄酸化細菌と、メタン酸化細菌の両者との共生によって、この変化に対応していると考えられています。一方、シチヨウシンカイヒバリガイは、共生菌がゲノム構造を変化させる進化をして、種としては1種類ですが、ゲノム構造が異なる共生菌亜集団が宿主内に複数存在し、共生系として、海水中に存在するエネルギー源を使い分け、幅広いエネルギー源を巧みに利用するという、これまで知られていなかった全く新しい環境適応戦略をとっていることがわかりました。」
……深海の生物は、地上とは違うやり方で生き延びてきている……なんだか、わくわくしてしまいますね☆
そして第2章では、巨大地震の発生メカニズムに迫る深海研究について、調査船で、水深7000mの海底から海底下1000mを掘削して、地震を起こした断層からサンプルを得た様子などの紹介や、巨大地震で何が起きたのかなどについての解説があります。これも、とても読み応えがありました。
さらに第3章では、水産資源、鉱物資源と温暖化などを軸に、人類が深海からどのような影響を受け、また今後受けつつあるのかを教えてくれます。
この中で、すごく期待したくなったのが、地球温暖化で問題となっている二酸化炭素とメタンに関する次の記述。
「(海底下のような)温度・圧力条件下では、二酸化炭素もメタンと同様にハイドレートを形成し、堆積物中に安定的に固定できると考えられています。深海・深海底はエネルギー・鉱物資源の宝庫であるばかりか、エネルギー資源の利用により排出された二酸化炭素を安定的に固定する大きなポテンシャルがあります。」
しかも、このような方法で液体の二酸化炭素を海底下の堆積物中に注入して固定した後、その二酸化炭素を微生物によりメタンに変換する手法などを活用することで、究極の循環型エネルギー社会が実現する日が来るかもしれないのだとか! もしそんなことが出来るなら、まさに一石二鳥ですよね☆
深海を知ることで、生命の神秘、地球のダイナミズムが見えてくる……地震国日本に住んでいる者としては、深海を含めた日本周辺の継続的観測で、地震予知の精度の向上も期待したいと思います。
深海の研究を通じて、生物の進化や地震のメカニズムを解説してくれる本でした。とても勉強になると思いますので、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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