『雪と氷の世界を旅して: 氷河の微生物から環境変動を探る』2016/8/17
植竹 淳 (著)

 雪や氷河など生きものの気配がない場所にも小さな微生物がたくさん棲み、独自の生態系を作っている……アラスカ、グリーンランド、パタゴニアなど世界各地の氷河から、その不思議な世界を紹介してくれる本です。
 一面真っ白に見える雪や氷の上にも、驚くほどいろんな生物(微生物)がいるそうです。雪上の微生物や苔のせいで、雪が真っ赤に見えることもあるのだとか。この赤い雪は、冒頭のカラーグラビアページで見ることが出来ます。(冒頭にカラーページ6ページあり)。
 さて、著者の植竹さんが、東京工業大学の幸島研究室で最初に与えられた研究テーマは、「パタゴニア南氷原アイスコア中の雪氷藻類の解析」。アイスコアとは、氷河をまっすぐ削った円柱状の氷で、過去から現在までの地球変化の変化とその状態を知るのに、とても重要な研究材料になるそうです。
 この本では、アルタイ山脈やアラスカ、グリーンランドなどすごく寒い地方でのフィールドワークの状況が写真付きで紹介されているので、普通の人にはめったに体験できない内容が多くて、とても興味深かったです。例えばロシアでは、アイスコアを掘り進めるための立派な極寒用機械式ドリルが用意されていたのに、夏の氷河では気温が高すぎたのか不調で、結局手掘りのドリルでしか掘削できなかったとか、雪を利用して大きな低温実験室を作ったとか、毎晩ウォッカを飲んだとか、研究のためのアイスコア削り作業で凍傷になったとか……。その他にも、一晩のうちにテントが雪の下に埋もれてしまい、次の日からは万が一に備えてスコップを横に寝ることにしたとか、夜になると氷河の上に黒いイトミミズのようなもの(アイスワーム)が湧くようにでてきて蠢き始めるとか(うわー……)、寒い所での出来事がすごく具体的に描かれていて、参考になりました。
 アイスコアが掘られるようなすごく寒い場所では、毎年降った雪が年輪のような層を構成するので、過去の気温や一年間の降雪量を知ることが出来ます。その中に含まれる花粉や微生物も、環境を知る上で重要な手がかりを提供してくれるそうです。またトリチウムを分析することで年代を特定することもできるようですが、それはなんとアメリカとロシアの冷戦時代の産物なのだとか。冷戦下の1961~62年に多く実施されていた大気圏内核実験により地球上に高濃度に放出されたものだそうで、そのおかげで(?)、世界各地のアイスコアで各地に堆積した1963年の層を特定することが出来るのだそうです。
 また氷河でのサンプリングは、自分の身体についている微生物の存在が厄介なので、滅菌された手袋をつけて採取するのは当然で、場合によっては、つなぎの白衣で全身を覆って作業するそうです。考えてみれば、きれいなサンプルを採取するためには、当然、氷河の奥深くに行かなければならないわけで、そんな場所に、何日もお風呂にも入れないまま、多くの重い研究機材を抱えて、たどり着く必要があるんですよね……それでもせっかく採取したサンプルに、微生物が混入してしまったら本当にすべの苦労が台無しになってしまうわけで……いろんな意味で大変なんだなあと、あらためて感じさせられました。しかも採取した微生物は、活かしたまま輸送しなければならないので、温度や栄養補給にも気を配らなければならないようです。
 そういう研究事情も含めて、フィールドワークをしたい学生の方には、色々な意味ですごく参考になる本だと思います。読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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