『ゲノム編集の光と闇』2019/2/6
青野 由利 (著)

 2018年11月、中国の研究者が「ゲノム編集をした受精卵から双子の赤ちゃんを誕生させた」というニュースを見たとき、「ああ、ついに、やっちゃった人が出たか!」と衝撃を受けました。当然ですが、生命の設計図をいとも簡単に操作し、実際に子どもを誕生させたことの是非について、倫理的・社会的な議論が巻き起こっています。この本は、それを可能にした「ゲノム編集」という最先端の生命科学技術を分かりやすく紹介してくれるとともに、「ゲノム編集」の持つ「光と闇」について考えさせてくれます。
 最近の生物学・医学の科学的進展はめざましくて、恐れすら感じてしまいますが、その中心の一つは間違いなく「ゲノム編集」にあると思います。なかでも『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』でも紹介している「CRISPR」を使ったゲノム編集は、その使い勝手の良さから、今後も「ゲノム編集」の世界を、どんどん広げていくことになると思います。(CRISPRについては、本書の中で詳しく解説されています。突然変異を人工的に起こすような仕組みを利用して、狙った遺伝子だけを書き換えることが可能になる技術です。)
 人間が「神の手」を掴みとってしまったようなこの技術は、従来は夢物語だった生命科学に関するSFを実現できるもので、本来ならば、もっと慎重に扱われるべきものではないかと思いますが、科学者たちの競争心のせいで暴走し始めないかと懸念しないではいられません。2018年11月の中国の技術者による発表は、「夫がエイズウイルス(HIV)感染者で妻が非感染者のカップルが体外受精で子どもをもうける際に、受精卵にクリスパーを作用させ、HIVに感染しない双子の女の子を誕生させたという。」ものですが、この女の子たちが今後どのように育つのかが、とても心配になります。ゲノム編集による悪影響が出ないと良いのですが……。
 また「第5章 種を「絶滅」に導く遺伝子ドライブの脅威」で紹介されている「遺伝子ドライブ技術とクリスパーの組み合わせ」も、とても衝撃的な内容でした。
「相同染色体の片方に1コピー導入された遺伝子変異を、これとペアを成すもう片方の染色体にもコピーする、というのが遺伝子ドライブの働き」なのですが、「遺伝子ドライブが標的遺伝子を切断したところに「センサーとハサミの遺伝子」も組み込む」と、「結果的に、相同染色体の両方の標的遺伝子に「センサーとハサミ」と遺伝子が導入されることになる。この生物が生殖して子孫を生み出す時にも、同じ仕組みで「センサーとハサミ」の遺伝子が両方の染色体に組み込まれる。これをくり返せば、コピペマシンが生物集団の中にどんどん広まっていく。」というアイデアを思いついた研究者が出てきたそうです。そしてそれを確かめるためにショウジョウバエの実験を行ったところ、実際に結果を確かめられたそうで、この方法を使うと、本当に「生物種を絶滅させる」などという恐ろしいことが可能になるのだと恐怖を感じました。
 そして最も心配になったのが、「終章 そこにある「新世界」は素晴らしいか」にあった次の記述。
「米国では、日曜大工の感覚で、自宅のガレージで生物実験を行う「ガレージ・バイオ」や「DIYバイオ」と呼ばれる動きが以前からあった。
 クリスパーを使ったゲノム編集も、この流れに乗って広がりを見せているようだ。カリフォルニア州に住むジョサイア・ザイナーのように、動物実験で筋肉を増強する働きが示された遺伝子をクリスパーを使って自分の腕に注射して見せる人まで現れた。
 これはいくらなんでもやりすぎだとは思うが、大腸菌の遺伝子をゲノム編集する一般向けのクリスパー実験キットは米国では売られているようだ。ユーチューブには、こうしたキットで実験する様子がいくつもアップされている。」
 ……おいおい、「クリスパー実験キット」なんて一般向けに売っていいのかよ! 知らない間に、とんでもなく恐ろしい事態が進行していたのだなー……。
 すごく怖くなりましたが、冷静に考えれば、「ゲノム編集」は、人間の未来をよい方向に切り拓いてくれる可能性が、大いにあるものです。私たちの未来を良い方向に導くために、今後もこの分野に注目していきたいと思います。みなさんも、ぜひ読んで、私たちの未来がどうあるべきかを考えてみてください。お願いします☆
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