『創造的思考の技術』1983/1
J.L.アダムス (著), 恩田 彰 (翻訳)
創造的思考の技術を教えてくれる本です。1983年の古い本ですが、今でも使われている一般的な技術を総合的に教えてくれるので、現在(2019年)でも参考になると思います。
創造的になるには、「想像力を最大限に広げることが出来、コントロールできることが必要」だそうで、創造的になるのに障害となるものを排除する必要があるようです。例えば、「感情的な障害」としては、次のようなものがあげられていました。
1)間違える、失敗する、冒険することへの恐れ
2)曖昧さに寛容でないこと。安定、秩序にとらわれすぎること。すなわち「混沌とした状態が肌に合わない」
3)発想するようりも判断するのを好むこと
4)緊張を弛緩し、あたため、さらに一晩「寝ながら考えること」ができないこと
5)興味をひくこともなく、やってみる気にもならないような問題であること
6)熱中しすぎること、早く成功しようとしてやりすぎること
7)想像力を使えないときが多すぎること
8)想像力の統制に欠けること
9)現実と空想の区別がつかないこと
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そして創造的思考の役に立つ「アイデアのためのチェック・リスト(ふやす、ねじ曲げる、ふくらませる、押し出す等)」や、「ブレインストーミング」など、さまざまな技法が紹介されていました。
これらは他の「創造的思考」に関する自己啓発書にもよく出てくる技法でしたが、個人的に参考になったのは、マサチューセッツ州ボストンにあるシネクティクス社によって開発された問題解決の技法。「批判や高度な専門知識は認めるが、概念化過程を危うくするような参加者の自我の欲求は許さない、という点で、ブレインストーミングよりずっと複雑で、高度に洗練されている」ものなのだとか。この「シネクティクス」の過程は、次のように展開します。
1)クライエントが問題を述べる
2)背景となる情報を得るために、リーダーが問題についてクライエントに簡単にたずねる。
3)問題の説明が完全に行われたことを確認するために、集団が何通りかの言い方で問題を言い直してみる。
4)問題を言い直したリストの中からクライエントは、最初の問題を把握しているものを一つ選び出す。
5)集団は問題に対する二、三の解決策を提出する。
6)クライエントはこれらの概念の中から一つを選択し、未解決のまま保留になっている事柄を述べたあとに、選択した概念に対して肯定的な意見を二つ述べる。
7)集団は保留事項を解決する二、三のアイデアを提出する。
8)クライエントは解決策の中から一つを選び、もう一度未解決のままになった事柄を述べてから、解決策に対して肯定的な意見を二つ述べる。
9)クライエントが満足するまで、もしくは時間(通常、一時間以内)がくるまで、7と8の段階を何度も繰り返す。
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この「シネクティクス」の過程のなかで感心させられたのが、3)の「問題のいい直し」。というのも、問題に直面しているクライエントは、自分の問題をうまく説明できないことが多いような気がするからです(問題自体がよく分かっていないために、自分では解決できないのかもしれません)。だから、ここで他者の集団がその問題を言い直すことで「問題を明確にする」手順があることは、もしかしたら解決策以上に役に立つことなのでは? と思ってしまいました。
日本の社会では、こういう状況でクライエントが問題をうまく説明できない時でも、それを聞く集団側が勝手に「忖度」することで、的外れかもしれない解決策を彼らなりに頑張って考え出して提案し、それを聞いたクライエント側は、よく分からないまま、みんなが頑張って考えてくれたのだからと受け入れて、結局、本質的にはなんの問題も解決しないまま終わる(解決したことにされる)ということが起こりがちな気がするので、このような「問題を明確にする」手順がきちんと設定されていることは、とても大事だと思いました。
また解決策にたいして、「未解決のまま保留になっている事柄を述べたあとに、選択した概念に対して肯定的な意見を二つ述べる」ことにも感心させられました。「解決できていない部分」をはっきりさせた上で、考えてくれた解決策のいいところも指摘する……このような手順を踏むシステムになっていると、参加者全員が自然に和気あいあいとした雰囲気のなかで互いに協力しあい、問題解決という目的を達成しやすいのではないでしょうか。
「創造的思考」を促進するためのさまざまな技法や組織づくりについて、とても参考になる本でした。読んでみてください。
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