『60分でわかる! ディープラーニング 最前線』2018/11/20
ディープラーニング研究会 (著), 関根 嵩之(株式会社リクルート) (監修)
AIの機械学習手法の一つ、ディープラーニングについて分かりやすく解説してくれるとともにAIの最新動向を紹介してくれる本です。
例えば、ディープラーニングの解説(のごく一部)は次の通りです。
「ディープラーニングは、「ビッグデータ」と呼ばれる大量のデータをもとに、膨大な試行回数によるトレーニングで学習精度を向上させるしくみです。とりわけ、「画像認識」「音声認識」「自然言語処理」の3つの分野において目覚ましい活躍を見せています。」
「001 ディープラーニングとは何か」、「002 ディープラーニングでできること」など、全部で69のテーマと数個のコラム(各1~2ページ)で、イラストを多用しながら、ディープラーニングの原理や仕組みについて、一般の方にも分かりやすく説明してくれています。
個人的に参考になったものの一つは、「Chapter3 これでわかった! ディープラーニング開発の第一歩」。ここでは、開発に必要なハードやソフトが、具体名をあげて紹介されていました。
例えば「030 ディープラーニング導入の手順」では、1)ソフトウェアの選定としては、フレームワーク(TensorFlow、PyTorch、Chainerなど)が、2)ハードウェアの選定としては、パソコン(GPU、エントリーモデル程度のGeForce程度でもOK)などが挙げられている他、クラウドサービスを選ぶ方法も紹介されています。
そしてもう一つ参考になったのは、「Chapter5 これからどうなる? ディープラーニングの未来」。ここでは、AIがスポーツの審判や教育に使われて始めているという事例の他、中国の社会的なシステム「天網」に関する記事も紹介されていました。
「ディープラーニングによって、スポーツの「誤審」問題は今、大きな変化を迎えています。テニスは2005年頃から、主要大会で「Hawk-Eye(ホークアイ)」と呼ばれる、AIによる映像処理技術を利用した審判補助システムが導入されています。同様に、サッカーでは2018年ワールドカップでオフサイドラインの判定等にも利用できる「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)」が導入されました。どちらもその効果は著しく、従来であれば判定を巡って騒ぎになりそうな局面を何度も決着させました。」
スポーツの審判にAIが取り入れられるのは、審判の公平性を高める、誤審を減らすという意味で、とてもよいことだと感じました。
また、中国で行われている「天網」は、かなり効果を上げてはいるようですが、プライバシーとの兼ね合いでの不安もあり、今後も注視していこうと思わされました。
「すでに中国では「天網」と名付けられたある試みが始まっています。農村部を除く全都市に備え付けられた、1億7000万台に及ぶAI監視カメラのネットワークによって犯罪を減らそうとしているのです。このカメラが交差点を歩く人々の顔を捉え、画像データベースから個人の情報を照合します。必要に応じて追尾は継続され、犯罪行為があれば自動で通報されてしまうというしくみです。その効果は素晴らしく、公安警察の検挙率も大幅に向上しました。
こういった目に見える犯罪行為であれば、客観的に見て社会によい影響を及ぼしているといえるかもしれません。しかし中国では、犯罪者の顔の特徴を分析することで「犯罪を起こしそうな人間」を割り出してマークするという試みまで進めています。もしも、より精度を上げるために、顔のデータだけではなく社会思想や交友関係までもが登録されるようになったとしたら、どうでしょう。思想的に相容れない人たちを徹底的にマークすることも可能です。」
……なんだかオーウェルの小説『1984』やSF映画『マイノリティ・リポート』を想起させられるような状況ですよね……。
AI(ディープラーニングなど)は、私たちの未来に大きく関わってくる技術だと思いますが、強力なものだけに慎重な使い方をして欲しいと感じました。
この本はディープラーニングについて総合的に概説しています。一般の人向けに広く浅く紹介しているものなので、この本だけで「ディープラーニング開発」が出来るようになるほど深い知識がつくわけではありませんが、広く浅く全体を知ることで、AIに関する理解を進められると思います。
またAIを仕事としている方にとっても、全体の復習が出来るとともに、最新動向を知ることが出来ますし、さらに自分の仕事を他の方に説明するときにも役に立つのではないか思います。ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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