『ヒューマンエラーを防ぐ知恵 ミスはなくなるか』2013/7/5
中田亨 (著)

 さまざまなヒューマンエラーと、それらと戦ってきた人類の歴史を紹介しながら、原因の分析や対策の立て方など、具体的に「ミスを防ぐ知恵」を紹介してくれる本です。
「ヒューマンエラー」とは、「事故のきっかけになる人間のまちがいのこと」。デスクワークや車の運転、製造業から医療の現場まで、人が関わる全ての場面で事故を招く「人為的ミス」=「ヒューマンエラー」で、次のような問題があるそうです。
問題点1)ヒューマンエラーはどこでも起こりうる
問題点2)ヒューマンエラーはその被害の量を予測しにくい
問題点3)ヒューマンエラーは防ぎにくい
問題点4)ヒューマンエラーは原因の根が深い
 また「事故」には、次のような特徴があるそうです。
1)意外性:意外で不本意な結果を生む。その結果の発生の予想や計画を誰もしていない。
2)有害性:その結果は誰かにとって不都合である
3)不可逆性:その結果から現状への回復を許容できる範囲内の費用で行えない。
 なお、意外でない有害現象は故意であり犯罪事件として分類され、有害でなければ事故とはみなされないのだとか。……なるほど。
 これらの事故やヒューマンエラー、防げるものなら防ぎたいものですよね。この本では、ヒューマンエラーの抑止対策も教えてくれます。例えば、抑止対策の3つの方針には、次のようなものがあるそうです。
1)作業を行いやすくする。ヒューマンエラーの発生頻度を抑制する。
2)人に異常を気づかせる。損害が出る前に事故を回避できるようにする。
3)被害を抑える。小さな事故が大きな事故に発展しないようにする。
 そして「ヒューマンエラーに気づかせる15の方法」も紹介されていました。ここではその一部だけを紹介します。
1)あえて手間を与える(寝ぼけている人間には作業させない工夫を)
2)小さな事故を起こす(寝ぼけている人間を叩き起こす工夫を)
3)わざと異常を起こす(ちょっとした違和感で危険を知らせる)
 などなど……。この「3」わざと異常を起こす」の例として、姫路城天守閣の上り階段が紹介されていました。頭を梁にぶつけないように、階段には「紐」を垂らして気づかせるように工夫されているそうです。……簡単でお金もかからないのに効果がある、すごく賢い方法ですね!
 この本には、ヒューマンエラーを防ぐための方法が、他にもたくさん紹介されていました。でも現実問題として、「ヒューマンエラーを完全になくす」ことは不可能なのだと思います(汗)。
 また、ヒューマンエラーは、実は、私たちの成長の原動力にもなっているのかもしれません。この本の冒頭には、次の記述がありました。
「私たちがフグを食べられるのは、フグにあたって死んでいった人びとのおかげです。(中略)私たちの科学技術文明も同じことです。多くの犠牲者を出しつつも、事故を反省し克服することで、技術を発展させることができたといえます。発明が技術の母であるならば、事故は技術を厳しく育て発展させる厳父であるといえます。」
 ヒューマンエラーに関する知恵を、総合的・多角的に教えてくれる本でした。
 ヒューマンエラー(ミス)はなくせないことを前提に、ミスを隠ぺいすることなく、その原因や対策を真剣に検討し、ミスが可能な限り起こらないよう環境を整えることが大切なのでしょう。
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