『生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)』2007/5/18
福岡 伸一 (著)

 生命とは何か……昔の天才科学者たちの思考を紹介しながら現在形の生命観を探った科学エッセイ集です。
「生物と無生物はどう見分けるのか、生命とは何か」。
 これは大学に入りたての頃、福岡さんが生物学の教師に問いかけられた言葉で、福岡さんはわくわくしながらその続きを期待したのですが、その講義中には明確な答えを得られなかったそうです。
 生命とは何か? それは自己複製を行うシステムである……それが二十世紀の生命科学が到達した答えだったようですが、この本の中では、その定義にあてはまらないものが提示されます。
 それはウイルス。ウイルスは生物というより物質に近い存在なのだそうです。ウイルスは栄養を摂取することも呼吸もしない、つまり一切の代謝を行っていないのだとか。このように単体としてのウイルスは、生物というより鉱物に似たものなのに、DNAを持っていて自己複製能力を持っているのです。
「ウイルスは生物と無生物のあいだをたゆたう何者かである。」
 この文章を読んで、もしかしたらウイルスは進化的な意味で生命の原初なのか?と思ってしまいましたが……ウイルスが複製されるためには宿主細胞が必要なので、そもそも生命がなければ自己複製できないんですよね……そう考えると、どうやら単純にウイルスが生命誕生の原初となったわけではなさそうです(汗)。
 この本は生物学者の福岡さんの自伝的エッセイ集で、「生命とは何か」への答えを探しながら、福岡さんが分子生物学を研究してきた姿が描かれています。いったん「自己複製能力」で定義された生命は、「生命とは動的平衡にある流れ」と再定義されたそうですが、それもまだ確定とは言えないようで……生命というものが非常に多様で複雑なものであることが、研究すればするほど、分かってくる状況にあるのでしょう。
 福岡さんの研究で、「GP2ノックアウトマウスと正常マウスの間では、行動も、代謝的あるいは生化学的指標も、いずれもとりたてて差異は見いだせなかった」という事実があったことは、「動的な平衡状態は、その欠落をできるだけ埋めるようにその平衡点を移動し、調節を行おうとするだろう」ということの証拠のようにも思われ、生命の不思議さ・強さを感じさせられました。
 このように、生命科学に関する知識や、昔の科学者たちが直面してきた問題などの知的情報が満載なのですが、文章がすごく抒情的に美しくて、一気に読み進められました。福岡さんの自伝的なエッセイ集なので、歴史のある外国の研究所での生活などが生き生きと描かれていて、研究者の優雅な(?)人生を垣間見ることも出来たような感じがして興味深かったです(笑)。
 また現代の研究者も直面する問題、「匿名のピア・レビュー法は、細分化されすぎた専門研究者の仕事を相互に、そしてできるだけ公正に判定する唯一の有効な方法ではある。しかし、(本来競争相手の)同業者が同業者を判定するこの方法はそれゆえに不可逆的な問題を孕むことにもなる。」などというような事情もいろいろ語られているので、研究者をめざす学生の方にとっては、参考になる情報がすごく多いと思います。
 しかも科学者のエッセイ集とは思えないほどの(汗……失礼)素晴らしい文章力。面白くて、すごく勉強にもなる本でした。科学者をめざしている学生の方には、特にお勧めします☆
   *    *    *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>