『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』2000/3/1
スティーヴン・ジェイ グールド (著), Stephen Jay Gould (原著), & 1 その他

 5億年前の不思議な化石小動物群を題材にした生物進化にまつわる物語です。物語といっても架空の小説ではなく、歴史的事実や論文をもとにしたドキュメンタリーで構成されています。文庫本で500ページ以上もあり、ずっしり重いし、すごく長くて読むのが大変なのですが、生物学に関してまったく素人の人間にとっても、とても興味深い内容満載で、面白くてためになる本でした☆
 1909年、カナダのバージェス頁岩で、5億年前の不思議な化石小動物群が発見されました。表紙のイラストで分かる通り、奇妙奇天烈で妙ちくりんなこの生きものたちは、発見当初は節足動物と思われていました。でも研究が進むにつれて、これらは既存の分類体系のどこにも収まらず、その上、われわれが抱いていた生物進化観に全面的な見直しを迫るものだということが分かってきたのです……。
 この長大な物語で、世界的に有名な進化生物学者のグールドさんは、自らの持論「進化は偶然の賜物で、必然ではない」ことを強調していて、その実例として、バージェス頁岩で発見された化石小動物群の研究を紹介しています。
 それがメインテーマだとは思うのですが、この本の一番面白いところは、これらの研究の経緯が、冗長と思えるほど丁寧に再現描写されている部分にあります☆ 
 ドラマチックな化石発見ドラマ(これには、どうやら脚色もあったようですが)で始まるバージェス頁岩の化石小動物群に関する研究物語は、化石群が最初の発見者の手でいったん既知のグループ内に分類された後、他の生物学者たちによって再解釈・再分類されていくのですが、その経緯が緊迫したドラマとして、活き活きと再現されています。
 化石は雄型(化石そのもの)だけでなく、生物の外形が堆積層に残した印象(雌型)も一緒に研究しなければならない、ということを、昔の研究者はあまり重視していなかったことなど、とても興味深く読みました(ありがちなことだ……)。
 また、4章の「ウェルコットの観点と歴史の本質」で示されるように、優秀な研究者でも、管理業務に忙殺されて時間がなかったり、信念などで偏向していたりすると、研究対象を正しく分析・評価できなくなることがある、というのはむしろ当然のことではないかと思います。
 バージェス頁岩の化石小動物群の見直しを行った三人の研究者は、「勝者は他よりも秀でた適応のおかげで勝利した」という従来の見解から出発したにも関わらす、最終的には、他よりすぐれていると予測されるデザインと成功を結びつける証拠はまったくないと結論するに至ったそうです。
 考えてみれば「多様性」とそれを生む「可塑性」は、生物生存の重要なキーワードなのではないでしょうか。戦国時代には「さまざまな異能集団」を抱えていたことが、勝利へつながったこともあります。変化しつづける環境に適応するのに、どんな能力・機能が必要なのか、事前に完全に予測することは不可能です。生物が全体として生き残っていくためには、偶然をうまく活かせる多様性が、非効率的にみえても、最も確実な戦略なのかもしれません。
 グールドさんは、我々人類は、最初からこのように進化することが決まっていたわけではなく、偶然このように進化してきたと言い、「バージェスを起点にして、テープを100万回リプレイさせたところで、ホモ・サピエンスのような生物が再び進化することはないだろう。これぞまさに、ワンダフル・ライフである」と言っています。
 この『ワンダフル・ライフ』のなかで示されるさまざまな出来事や考察は、とても示唆に富んでいるので、生物学だけでなく、すべての研究者にとっても教訓や参考となる内容だと思います。ぜひ一読してみてください☆
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