『ホーキング博士 人類と宇宙の未来地図』2018/9/25
竹内 薫 (著)
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症、二度の結婚、科学者としての成功、大ベストセラー著者としての不動の人気……数奇な人生を送った「車椅子のニュートン」ホーキングさんの人生と、その宇宙論を分かりやすく紹介してくれる本です。
「ALSは、運動神経の障害とともに筋肉が萎縮していく進行性の神経難病であり、病気が進むに従って、手足をはじめ、体が自由に動かせなくなり、やがて話すこと、食べることはおろか、呼吸することも難しくなっていきます。一方、感覚、自律神経と頭脳にはほとんど障害がなく、発病から3~5年で寝たきりになるのが通常のようです。この難病では今でも原因が究明されておらず、ビタミン剤を服んだりして凌ぐしかないようです。」
こんな困難な病気をかかえながらも、ホーキングさんは驚異的なほど精力的に研究を続け、宇宙論に量子力学を持ち込むなどの画期的な手法を使って、私たちの宇宙への考え方を新たな高みへと導いてくれました。
「宇宙の始まり」と「ブラックホール」に関する理論で有名なホーキングさんですが、その量子宇宙論はすごく難解な感じで、分かるような分からないような、もやもやした感じがしていました。
ところがこの本の中の、竹内さんの「実在論者」と「実証論者」に関する説明を読んだことで、ああ、なるほどそういう立場から出てきた理論だったのか! となんとなく納得できたような気がします(笑)。
「科学の世界には、大きく分けて「実証論」と「実在論」という2つの研究態度があります。」
「実在論者は、ごく簡単にいえば、現象に対して「○○のしわざ」と何か原因となるモノを見つけて納得したい、という気質の持ち主です。」
「実証論者は「結果がわかればそれで十分。そこに至る経緯(モノの動き)は気にしない」という気質です。」
つまり、宇宙についてはそもそもよくわからないという前提のもと、確認(実証)できる範囲だけで話をしてみよう、というのが実証論の立場で、ホーキングさんは、バリバリの実証論者なのだそうです。……そういうことだったのか。要するに「とりあえずの仮説」の宇宙論だったのですね。
同じように、次の話もとても興味深く感じました。
「宇宙論学者の仕事とは、いわば、数学を使って論理的なSFを書くことなのです。だから無境界「仮説」であり、マルチバース「仮説」であるわけです。宇宙の始まりに「虚時間」を持ち込むのも、「こうしたらどうだろう?」という仮説にすぎません。宇宙論の分野で提出される論文というのは、そのほとんどが仮説なのです。
といっても、誰もが好き勝手に何を言ってもよいというわけではなくて、そこには最低限のルールがあります。そのひとつが、数学を用いるということ。数学によって自分の仮説を表現し、そこに整合性が成り立っていることが、仮説の価値としては、必要最低限の条件と言えるでしょう。」
ホーキングさんの伝記を通して、ホーキングさんの研究態度や人生観だけでなく、その宇宙論の概要まで学ぶことが出来ました。宇宙論に関する次の比喩も、とても分かりやすかったと思いますく。
「ニュートンの物理法則で成り立つ宇宙を硬い鉄板のような揺るぎない時空とすると、アインシュタインの宇宙はゴムシートのように、重い所は凹む時空です。そして、ホーキングの宇宙は、そのゴムシートの表面にボコボコと泡みたいな形がくっついている感じでしょうか。」
……「ブラックホール」「虚時間」「時間の矢」など、さまざまな概念の概要を知ることが出来るとともに、大変な病気や障害をかかえながらも自分らしく懸命に生きぬいた天才科学者の生き方に勇気をもらえる本でした。
ホーキングさんは、ケンブリッジ大学のユニオンにゲスト・スピーカーで招かれた際に、目の前の出来事から意味を見出そうとする努力の大切さを語った上で、次のように言われたそうです。
「どんなに人生が困難に思えても、できることは必ずあるし、成功の道もある」
……とても素晴らしい本でした。ぜひ読んでみて下さい。お勧めです☆
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