『なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?』2008/11/21
佐伯 照道 (著)
経済事件に群がるハイエナたちの手口に詳しい最強の破産管財人が、自らの経験をもとに対処法を教えてくれる本です。
『なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?』というタイトルですが、「ウラを即座に見抜く」方法についての教えはとくになかったような気がします(汗)。「即座に」ではありませんが「ウラを見抜く」には、「現場に赴いて状況をよく観察する」、「観察した上で想像力を働かせる」、「相手の言うことを鵜呑みにしない(周辺の人や対立している人の話もよく聞いたうえで判断する)」ということが必要なようです。ということは、「即座に」見抜くことは出来ないような……というより、むしろ「軽率に判断してはダメ」と言っているような気すらしてしまいました。だから「ウラを即座に見抜く方法」を知りたいと思って読み始めた方にとっては、期待はずれな内容に思えるのではないかと思います。
それでも、この本は、「トラブル対応の仕方や心構え」を学ぶ上で、すごく参考になる情報が満載でした。まさに「凄腕」の破産管財人、本当に困った事態に陥ってしまったら、ぜひ頼りにしたい弁護士先生だなーと思わされました。
この本の最初の章で、佐伯さんは若手弁護士だった二十七歳の頃、暴力団員に自宅を占拠された経営者夫人の問題を解決に導いた時のエピソードを教えてくれますが、これが本当に凄い……威嚇的な暴力団の集団を前にしても、一歩もひきません。
「むしろ私は、ほとんどおびえたり、怖がったりしていない自分に気づいていた。
私一人を殺しても、彼らの言い分がまかり通るわけではない。日本の弁護士全員を殺さなくては、だれかが私の代わりに立って闘ってくれるだろうと漫然と信じていた。
仮に殺されても、死んだら何もかもわからなくなるのだから、恐れることはない、という感覚があった。死生観といえばいえるかもしれない。
ただ、痛いのはいやだ。苦しいのもいやだ。だから、相手に殴られそうなことは言わない。怒らせないように、暴れさせないように、静かに、ぼそぼそと、言うべきことを言う。主張する。それで十分である。」
……うーん、ここまで肝のすわっている弁護士って、なかなかいないような……。
この後も佐伯さんは何度も、暴力団関係者などと「話し合い」をしていますが、その度に、まず冷静に周辺の危険物(ガラスの灰皿や重い六法全書など)を片付けて、穏やかに、相手の言い分を尊重しながら、ぼそぼそと自分の言いたいことも主張していきます。サスペンス小説のようなスリリングな状況がどんどん登場してきて、うわー……と、どきどきしながら、引きこまれるように読み進められました。
さまざまな問題の解決をするときに、最も必要な心構えを教えてもらった気がします。そのエッセンスは、この本の冒頭に記された次の文章にあらわれていると感じました。
「私は、話をまとめるときに、ひとつのスタンスを持っている。
それは、妥当な解決、あるべき姿、望ましい結果とは何かを考え、そこから「ではどうするか」を発想するということだ。観念上の理想は追わないが、現実的な理想は希求するということである。
「無難に」では、どこかに必ず難が出るのだ。「前例がない」と縮こまっては、いい解決策は出ない。「常識はずれ」を恐れて人道をはずれては、本末転倒だろう。
自分の胸に解決のイメージをできるだけ描き、流れがそこに向かうように話を運んでいく。ただし、無理強いはしない。思い通りにことを運びたいなら、まず、当事者の意見をよく聞くことが大切だ。」
サスペンス小説みたいな「現実の経済事件」の裏側(実態)と、それらをどう解決に導いたのか(経緯)を紹介してもらえる本でした。具体的な事例が豊富なので、困難な問題に直面した時、自分がどう行動すべきかの参考になると思います。……個人的には、本当にすごく困った時には、「佐伯先生(または信頼できる弁護士)」にお願いするのが正解のような気もしてしまいましたが……(汗)。
トラブル対応に関わる仕事をしている方はもちろんのこと、すべてのビジネスマンの方に読んで欲しい本だと思います。お勧めです☆
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