『ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか』2017/9/23
翁 百合 (編集), 柳川 範之 (編集), 岩下 直行 (編集)

通貨、金融サービス、契約・取引、IoTなど、経済社会の広範な分野に破壊的なインパクトをもたらす技術「ブロックチェーン」の特徴や課題について、各分野でブロックチェーンの応用に実際に取り組んでいる専門家が解説してくれる本です。
ビットコインに代表される仮想通貨、国際送金などの金融サービス、企業のサプライチェーンへの応用、電子政府への導入など、さまざまな応用事例を総合的に紹介してくれる他、未来予測、用語集などもあり、ブロックチェーンに関する総合的な参考書としてとても役に立つと思います。テーマごとに、その分野の専門家が解説してくれるので、実務に即して何が課題なのか、どのような可能性が開けるのかなど、実践的に役立つ内容だと感じましたが、執筆者によっては論文のようで分かりにくい章もありました(汗)。それでも全体としては、かなり分かりやすくて、すごく勉強になったと思います。
中でも参考になったのが、「第6章 銀行の勘定系システムのブロックチェーン実証実験」。2015年12月16日、住信SBIネット銀行が野村総合研究所の協力を得て、ブロックチェーン技術を活用した将来の基幹・業務システム構築を目的とした実証実験を行うと発表し、既存の取引の再現性実験などを行った結果の紹介記事。既存の取引の再現性実験だけでなく、現在の負荷と同等の負荷に耐えられるかの検証や、システムトラブルなどの障害を想定した環境負荷実験、さらに対改ざん性の検証実験も行ったそうです。その結果、銀行システムに求められるデータの正確性においてブロックチェーン技術は十分期待でき、費用対効果についても、災害時の復旧/業務継続のための専用環境が不要なことが大きいことが分かったのだとか。
また「第7章 中央銀行からみたブロックチェーン」では、2017年8月1日のビットコイン分裂騒動で明らかになったビットコインが抱える幾つかの課題に考えさせられました。一つは、「ビットコインが「中央を持たない」仕組みであると標榜されていながら、実際にはビットコインのコア開発者や大手発掘業者といった「ビットコインを支える裏方」が存在し、それらの覇権争いによって、ビットコインの仕組みが揺らぎかねないということ。」そして二つ目は、「ビットコインが分裂して新たなコインが誕生し、その流通総額がビットコイン全体の10%前後で推移していることを考えると、ビットコインが想定していた「2100万BTCの発行上限」がコインの希少性を保証するとは考えにくくなった。」こと。……これらの課題は、どちらも現実として、かなり大きな問題のような気がします。
また「Appendix」などにあった、次の指摘も重要だと感じました。
「いくらブロックチェーン自体の仕組が信用できるものであったとしても、そこから派生して生まれるさまざまな事業や、サービスを運営していく上では、技術の力だけでは解決できない問題がこれからも起こりうる、ということを意味している。」
ブロックチェーン上で起こる問題すべてを完璧に想定しきることは誰にも出来ないので、問題が起こった時に、どのように解決するかを話し合う仕組み&修正を実施する仕組み、さらには問題発生を監視する仕組みを決めておくことが重要なのではないでしょうか。例えばビットコインでも、現実的には「ビットコインを支える裏方」が必要とされるように、「システムの参加者みんなで平等に支える」仕組みがうまく働くというのは幻想のような気がします。そういう意味で、私個人としては、ブロックチェーンを利用した仮想通貨であっても、やはり「中央銀行」のような機能を果たす存在が必要なのでは? と思うのですが……。
いろんなことを考えさせられ、とても勉強になった本でした。セキュリティに関しても、電子国家戦略をとっているエストニア政府の取り組みが参考になりました。政府のデータベースの「利用者は、自分の情報が閲覧された場合には、必ずログを参照できるような仕組みになっている。そして目的外などの違法な閲覧行為には非常に大きなペナルティが科せられることとなっている。」そうです。
ブロックチェーンに関して、総合的かつ具体的な解説が充実しているだけでなく、付録として「未来予測」「用語集」などもあり、索引の英語略語には略語の元となる綴りも書いてあるなど、総合的な参考書としてすごく役に立つ本だと思います。ぜひ読んでみてください。