『まんがでわかる サピエンス全史の読み方』2017/6/15
山形 浩生 (監修), 葉月 (イラスト)

「貨幣、会社、宗教、国家……人は幸福のために虚構(フィクション)を創り出した」と語りかけるユヴァル・ノア・ハラリさんのベストセラー『サピエンス全史』をまんがで読み解いてくれる本です。
「1 サピエンスの勝因はフィクションを信じる力」、「2 知識を貪欲に収集した狩猟採集民」など全部で7章あり、各章の終りに『サピエンス全史』を読み解くための短い解説やコラムがあります。
まんがの主人公は、就職後まもなく退職してしまい現在はニートの若い女性・水原杏果(ももか)さん。今の社会になんとなく不安や疑問を抱きながら、どう生きていくべきか悩んでいます。そんな彼女はある日、ふとしたきっかけでボルダリングを始めることになり、周囲の人の温かい励ましに助けられ、しだいに社会の中で自分らしく生きていく意欲が湧きあがってくる……というストーリーです。
自己啓発的な内容で、読んでいてとても気持ちよかったのですが、肝心の『サピエンス全史』とは、あまりかみ合っていないところがありました(汗)。まんがの話の中に、『サピエンス全史』の中の文章が四角で囲われて出てくるのですが、まんがの内容に合致している感じがあまりしないので、なんだか消化不良感があるんですよね(汗)。
なので、私は途中から、『サピエンス全史』部分を無視する形で、まんがをまず全部読んでしまってから、もう一度最初に戻って、まんがのなかの『サピエンス全史』と解説を読み直すという方法で読むことに変えました(笑)。このように読むと、両方を、より気持ちよく楽しめる(理解できる)気がします。
さて、監修者あとがきによると、「『サピエンス全史』の主題は簡単だ。人類はフィクションを信じ、それに基づいて行動をする。虚構に踊らされ、思い込みに惑い、しかもそれによって大して幸せになったわけでもない。」なのだそうです。
言葉という「認知革命」のおかげで、「サピエンス種は虚構を「集団で」共有することができたのである。」……そして「貨幣、宗教、国家」も虚構なのだとか。例えば「人権」も共同主観的(ある想像を集団で共有すること)なので、一人が意識を変えても消滅はしません。集団で意識を変えて初めて消滅するものなのだとか……なるほど。
また、この本の「3 農業の始まりがもたらした人類の苦しみ」では、一般的には、サピエンスに財産や時間的な余裕(さらに知能の発達)をもたらしてくれたと考えられている農業(小麦)に、まったく別の評価が与えられていました。実は、農耕は、将来への不安や社会秩序(支配)をもたらし、サピエンスを小麦の奴隷にしたのだとか(!)
……うーん、そうなんでしょうか? 確かに小麦は人間に至れり尽くせりの世話をされて繁栄しているのかもしれませんが、実際には、人間の都合のいいように品種改良され収穫されてもいるんですよね……。この本の「6 科学が駆り立てた更なる征服への欲望」の末尾のコラムでは、家畜とされた動物たちは工業製品のようになり、野生動物は種の存続さえ危うい状況にあるとありましたが、この「家畜」たちと「小麦」の立場は変わらないと感じるのは私だけでしょうか? もちろん人間によって自由を奪われている家畜が人間を奴隷にしているとはとうてい思えませんが、小麦が人間を奴隷にしていると言うのなら、家畜たちも人間を奴隷にしていると言えるのでは? ……その辺がよく分かりませんでした。
ということで、必ずしも『まんがでわかる サピエンス全史の読み方(サピエンス全史)』のすべてを肯定的に読んだわけではありませんでしたが、今までの常識とは違う視点をたくさん与えてもらったような気がします。
「農業を含め、多くの「発展」で人間は幸せになっただろうか」と、『サピエンス全史』は私たちに問いかけてきます。私たちは自分を守り発展させるために「虚構」を創り上げてきましたが、その「虚構」は戦争や差別につながることがあったことも確かで、必ずしも私たちを幸せにしてこなかったようにも思います。その一方で、「虚構」は法律や国家をつくることで、不正を正したり弱いものを守ってきたりしたことも確かで……、自然災害は多くても社会的にはおおむね平和な日本で生活している私にとっては、「発展」や「虚構」は、少なくとも原始時代に生きているよりは、サピエンスに幸せ(楽)をもたらしてくれたように思えます。
今後は機械や人工知能など、サピエンスの能力を超えるような存在が、私たちの周囲に溢れていくことでしょう。これからもサピエンスが幸福でいられるかどうかは、私たち現代人に任されているのではないでしょうか。
いろいろな事を考えさせてくれる本でした。『サピエンス全史』を全部読むのは大変だけど、この本は漫画なので気楽に読めると思います。読んでみてください。