『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか? (ブルーバックス)』2018/3/13
塚崎 朝子 (著)

がん治療に革命をもたらす「免疫チェックポイント阻害薬」、新型インフルエンザやエボラ出血熱に対抗できる抗ウイルス薬、がん治療の「魔法の弾丸」ともいえる分子標的治療薬など、日本人研究者が関与した「画期的新薬」が続々と誕生しています。これらの薬の開発にまつわる経緯を紹介してくれる本です。
「新しい薬を造り出す「創薬」は、承認された薬を製造する「製薬」に比べて、並はずれて難しい。(中略)日本は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スイスなどと並び、真の創薬を成し遂げられる世界で数少ない国の一つである」のだそうです。良い薬は、病気に苦しむ世界中の患者さんを治療することが出来る素晴らしいものなので、今後も、「真の創薬を成し遂げられる」国であって欲しいと思います。
「第1章 画期的新薬を創った日本人科学者たち」では、世界で初めて(1804年)、自ら作った「通仙散(マンダラゲの実などの薬草を組み合わせたもの)」という麻酔薬を使った全身麻酔下で、乳がんの摘出手術に成功した花岡青洲や、化学合成による薬の製造の草創期に、歴史に名を残す新薬を創製した長井長義(エフェドリン)、高峰譲吉(アドレナリン)などが紹介されていました。……医療物の小説でもよく見かけるエフェドリンやアドレナリンって、日本人が創薬したものだったんですね!
そして「第2章 世界を救った薬」から「第7章 難病もよくある病気も」までは、イベルメクチン(経口駆虫薬、疥癬・毛包虫症治療薬)や、ニボルマブ(がん免疫治療薬)などの画期的な新薬を開発した人々の苦闘や、創薬の方法などが紹介されていきます。
たとえば、3億人を失明から救った画期的新薬(イベルメクチン)でノーベル賞を受賞した大村智さんは、地道な「土の採取」によって有望な新規物質を発見したそうです。「1974年、静岡県伊東市川奈のゴルフ場近くで採取された土から新種の放散菌(OS-3153)を発見した」ことが、イベルメクチンの創薬につながりました。「拾った土にいた菌から採取したもの」から作った薬でノーベル賞なんて、なんだかすごいラッキーボーイみたいですが、この菌を見つけるまでには、多くの数の土を採取し、菌を調べまくっていたのです。本当に、「幸運は強い意思を好む」んですね。
この本では、日本人が開発してきた14の画期的な薬の開発の舞台裏を少しだけ見ることが出来るだけでなく、創薬を行った大村智さんなどのインタビューを通して、創薬をする人たちの考え方なども知ることが出来ます。製薬業界や方々や薬学部の学生の方は、ぜひ読んでみてください。
さて、この本のあとがきには次の文章がありました。
「創薬技術は日進月歩で進んでいる。現代の合成医薬品は、病気のメカニズムにとって重要な生体内の受容体の鍵穴にピタリとはまり込むようにデザインされることが多い。その機能を高める働きがあれば「作動薬」、機能を阻害する働きがあれば「拮抗薬」になる。さらに、ポストゲノム時代を迎えて、遺伝子組み換え技術を応用したバイオ創薬も花盛りである。機能分子や遺伝子を標的にした抗体医療・核酸医薬などの開発も盛んだ。」
技術の進歩で、今後も、より安全で効果的な薬が開発されていくことを期待したいと思います。病気のメカニズムが詳しく解明されることで、新しい薬の開発だけでなく、現在の薬の副作用の部分を解消するような改良も可能になるのではないでしょうか。世界中の人々を「より幸福に」するために、創薬技術が役立ってくれることを願っています。