『くすりをつくる研究者の仕事: 薬のタネ探しから私たちに届くまで』2017/3/30
京都大学大学院薬学研究科 (編集)
薬をデザインする、合成する、薬が効く仕組みを追求する……薬をつくるさまざまな研究について解説してくれる本です。内容(目次)は以下の通りです。
第1章 薬はどのようにつくられるのか―発見の歴史と開発秘話
第2章 薬を合成する―炭素の錬金術師
第3章 創薬ケミカルバイオロジー―自然に学ぶ薬づくり
第4章 薬の標的タンパク質の構造を決める―かたちから探る機能の仕組み
第5章 薬をいかにデザインするか―設計図づくりと分子の探し方
第6章 薬をはかる、タンパク質をはかる―質量分析からオミクス科学まで
第7章 薬が効く仕組みを探求する―イオンチャネルが拓く新しい創薬
第8章 体のなかを診る薬―放射性化合物を薬として使う
第9章 生体リズムと現代病―時計遺伝子を活用して治療する
第10章 体をめぐる薬の動きをあやつる―DDSでめざす効果的な投薬
第11章 生薬からの医薬品開発ものがたり―冬虫夏草からフィンゴリモドへ
第12章 薬は私たちに届くまで―薬をつくる・ちがいを知る・効果的に使う
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薬の起源はかなり古く、たとえば中国には、約二千年前の漢の時代に、365種類の薬草をまとめた『神農本草経』という本があるそうです。生薬は数千年にわたる人体実験の賜物なのですね。今日では、多くの生薬の有効成分が抽出されて構造決定され、錠剤やカプセルに形を変えて使用されています。
また西洋に目を向けると、ヤナギから生まれたポピュラーな薬のアスピリンの起源は、ヒポクラテスの頃にあるそうです。ヒポクラテスは、熱や痛みを和らげるためにヤナギの樹皮を、分娩時の痛みを和らげるためにその葉を処方したのだとか。
そして現代の薬学でも、天然物から得られる成分を、新薬のよい種、すなわちシード化合物として利用しているようです。
この本は、薬の歴史、合成方法、デザイン、効く仕組みなど、薬に関わる総合的な情報を幅広く紹介してくれます。
薬を創るためには、薬を「はかる」ことも大切で、「その薬の投与量をはかりとるだけではなく、投与後、どのくらいの時間で、体のなかのどこに、どのくらいの量、どういう構造で存在しているのか、をはかる必要がある」のだとか。……確かに、そうですよね。「飲んだら必ず効く」ような気がしていましたが、なにも効かないまま、すぐに体内から排出されてしまうこともあるでしょうし、必要のない場所に蓄積されて有害な副作用を起こしてしまうこともあるかもしれません。
薬を創るのには、さまざまな知識や技術を総動員する必要があることを痛感させてくれる本でした。現在では、科学技術力がどんどん発展しているので、コンピュータによるバーチャルスクリーニングなど、時間とコストを節約することが出来る新しい方法もどんどん生み出されているようです。
薬を標的だけに選択的に送り込むDDS、DNAを投与する遺伝子治療……新しい技術で、今後も、より安全で効果的な薬を創りだして欲しいと願います。「ひとりの医師が一生かかって治すことのできる人の数の何万倍もの人を、ひとつの画期的新薬で治すことができる」のですから。
この本は「薬学の啓蒙書」として書かれているそうですが、かなり内容が専門的なので、一般向けというよりは、薬学部の学生や、薬学部を目指している高校生向けではないかと思います(一部には、学術論文をそのまま転用したのではないかと思われる記事もありました)。決して、一般人にとって「分かりやすい」内容ではないと思いますが、とても勉強になる本ですので、薬学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。