『巨大ウイルスと第4のドメイン 生命進化論のパラダイムシフト (ブルーバックス)』2015/2/20
武村 政春 (著)

2013年7月に科学誌『サイエンス』に第1報が掲載された「超巨大ウイルス」。従来のウイルスと大きく異なるこの巨大ウイルスをめぐって、生命とは何か、そして進化はどのように行われてきたのかを考察している本です。
巨大ウイルスとして、これまで、パンドラウイルスのほか、ミミウイルス、ママウイルス、メガウイルス、ピトウイルスなどが、続々と発見されています。これらの姿は、従来のウイルスと大きく異なっていました。サイズがとても大きいだけでなく、自ら「複製」と「転写」の遺伝子を備えていたのです。かといって、これを生物とみなすには、あまりにもウイルス的でした。
ウイルスでもない。生物でもない。だとしたら、これまでに全く知られていない新たな生命の形なのではないか……。
現在、生物の世界は、「バクテリア」「アーキア」「真核生物」の3つのグループ(ドメイン)に分けられているのですが、巨大ウイルスは、そのどれにもあてはまらないそうです。もしかしたら、新たな「第4のドメイン」が付け加わることになるかもしれない……そんな議論が巻き起ころうとしています。
この本は、このような最先端のウイルス研究の解説とともに、「生命とは何か」をあらためて問い直しています。
「生きている」と言えるには、「自らの力でエネルギーを作り出し、体を維持したり活動したりすることが必要である」とともに、「子孫を増やす」能力があることも必要だそうです。すると巨大DNAウイルスは、果たして「生きている」のか「生物」なのか……。これは難しい問題で、「生物ではないが、生きているように見える状況」にあるようです(汗)。答えはまだ明らかになってはいません。
生物学の本ですが、一般の読者にも理解できるよう、とても分かりやすく解説されていると思います。
なかでも興味深かったのが、「ヴァイロセル」という仮説。これは、「ウイルスの本体はウイルス粒子なのではなく、ウイルス粒子を作るものこそがウイルスである。そしてウイルス粒子を作るものとは、ウイルスに乗っ取られた状態の(感染した)細胞で、これを「ヴァイロセル」と呼び、とても特殊な例ではあるが、これは一つの細胞性生物だ」という考えだそうです。
この仮説はまだ広く承認されたわけでなく、仮説の一つのようですが、すごく面白い考え方だと思いました。
ところで、我々人間は、進化の途中でミトコンドリアをとりこんで「共生」しているといいます。だとしたら、それは「ヴァイロセル」のような感じで始まったのだろうか、なんていうような妄想まで抱いてしまいました(汗)。
それはともかく、これらの巨大ウイルスの研究やDNA解析は、進化をめぐる謎を少しずつ解き明かしてくれそうです。今後の研究の進展に期待したいと思います☆