『図解・天気予報入門 ゲリラ豪雨や巨大台風をどう予測するのか』2021/9/16
古川 武彦 (著), 大木 勇人 (著)
従来の天気図から分かる気象情報から、最新のコンピューターによる数理予報の技術まで、天気予測技術全般について、図やイラスト、写真を使って教えてくれる『図解・天気予報入門』です。
前半では主に天気図による気象のしくみの解説。第1章は地球温暖化により強靭化した台風について最近の例で詳しく解説、第2章では、日本の天気予報の歴史(気象レーダーも気象衛星も天気図もない時代の台風による災害の実態など)。第3章では、アメダスなどの現在のさまざまな気象観測システム。第4章では、特徴的な天気図を例に気象現象を解説。「移動性高気圧」「寒冷前線の通過」「西高東低」「帯状高気圧」などの意味を説明してもらえます。
後半では、現在天気予報の中心となっている、コンピューターによる「数値予報」の解説。第5章で数値予報とはなにかを物理法則を交えて説明、第6章では数値予報から利用しやすい言葉に置き換える「ガイダンス」、第7章では最近用いられている手法「アンサンブル」について解説してくれます。
特に第4章の「天気図」による気象現象の解説は、まさに「天気予報入門」的な内容で、とても勉強になりましたが、個人的に興味津々だったのは、第5章以降の「数値予報」に関する話。「数値予報」というと、すごく難しいのかと思いきや、意外にも地道な泥臭い方法だったので驚きました……が、考えてみれば当然という感じの手法だったので、納得もしていまいました(笑)。
「気象観測(気象台測候所、アメダス気象衛星、ウィンドプロファイラ、気象レーダー、ゾンデ)」の数値から、「天気予報の発表」に至るまでの数値予報には、次の3ステップがあるそうです。
1)客観解析(データ同化)
2)数値予報(本計算)
3)天気翻訳(後処理)
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このうち「客観解析(データ同化)」は、予報GPV(格子点値)を実際の観測値で補正することを繰り返して、より信頼性の高いデータセットにすること。
そして数値予報のもっとも基本的な計算に用いる物理法則は、次の5つだそうです。
1)運動方程式(ニュートンの第2法則)
2)エネルギー保存の法則(熱力学第2法則)
3)気体の状態方程式
4)質量保存の法則
5)水の保存(水蒸気や水滴が移動・状態変化しながらも水の質量が保存される)
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そしてその計算は、次のような地味な方法……。
「微小時間後の物理量の変化率を計算して、現在の物理量に加えるという単純な計算方法が、「数値予報」における計算の最も基礎的な方法となっています。」
「実際の天気予報における数値予報では、微小時間は10分などの時間です。これくらいの時間であれば、物理量の変化率が一定であると仮定しても、理論上真の値とのずれは小さくてすみます。そこで、一度微小時間(10分)後の予想値を計算したあと、その計算値を初期値として風速の時間変化率を新たに求め、もう一度同じ手法で微小時間(10分)後の予想値を計算します。これで20分先の予想値が計算できます。これを何度も何度も繰り返して計算します。」
数値計算用の式には、「大気中の気塊にはたらく力=気圧傾度力+コリオリ力+摩擦力」などを入れるようです。
そして「天気翻訳(後処理)」は、「機械の言葉(計算結果)を人の言葉に翻訳する」こと。
「GPV予報値(格子点値として出力された予報の数値)から、天気予報を出す単位となる各地域(「千葉県北部」など)の天気予報資料を出す過程を「ガイダンス」といいます。「ガイダンス」は、天気、最高・最低気温、雨量、降水確率、発雷確率などの予報要素を数値あるいは図形式で表したものです。」
なるほど……コンピューターによる「数値予報」のやり方の概要がよく分かりました。
そして、この予報の確率をさらにあげるために、次のような「アンサンブル手法」が使われているそうです。
「せいぜい1週間程度といわれている高・低気圧などの省長に対する予報期間の限界を、通常の数値予報モデルを用いながら大幅にのばそうとする手法がアンサンブル予報です。(中略)
アンサンブル予報は、数値予報の本計算を行う際に、観測誤差と同じ程度の小さな誤差をわざと人為的に与えた多数の初期値の組からなる集団(アンサンブル)を設定します。そして、それぞれの初期値ごとに独立して一定期間(例えば34日間)の予測計算を行い、集団の全予測値の単純平均を求め最終的に発表する予報とするものです。」
なるほど、このような方法で、なんとか「カオス」を克服しようとしているんですね……。
天気予報全般について幅広く解説してくれる『天気予報入門』で、とても勉強になりました。気象予報士を目指す方はもちろん、天気に興味のある方、科学が好きな方もぜひ読んでみてください。
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