『薬草ハンター、世界をゆく:義足の女性民族植物学者、新たな薬を求めて』2022/3/19
カサンドラ・リア・クウェイヴ (著), 駒木 令 (翻訳)

 ベトナム戦争で米兵の父が浴びた枯葉剤のために骨格異常で生まれた少女は、幼少期に右足を切断。やがて医学を志し、研修先のアマゾンで薬草に魅せられる……新薬を求めて世界中をまわり、科学者として母として苦闘する半生を自ら語ってくれる本です。
 民族植物学者のクウェイヴさんのライフワークは、植物由来の新薬の発見。「序章」には次のように書いてありました。
「(前略)その植物(キイチゴ属のある種のブラックベリー)には細菌のバイオフィルム――生物膜や菌膜ともいう――生成阻害をする能力があり、固体の表面に細菌をくっつきにくくして、抗生物質や免疫系の攻撃能力を高めることができる。さまざまな種類のキイチゴ属を集められれば、抗生物質の発見以来、もっとも厄介な現象のひとつに対する有効性について、研究を進められる。その現象の正体とは「抗生物質耐性菌」。これこそわたしの標的であり、宿敵だ。わたしの仕事は、人類の生存をかけた戦いの次なる段階において、この強敵に対する有効な武器を開発することだ。」
「民族植物学とは、人類が周囲の環境に応じてどのように植物を調達し、食料や建築資材、道具、そしてわたしの場合は薬に変えていったかを研究する学問だ。」
 ……植物やそれを利用する伝統治療は、それなりに効果があがっているように見えても、実はきちんと科学的に解析されていないものが多いそうです。クウェイヴさんは、その状況を変えていこうと、驚くほど精力的に活動しています。この本では、中流家庭に育った片脚がない(義足)の女性科学者が、数々のハンデを乗り越え、新薬を求めて世界中をまわり、科学者として母として苦闘するリアルな姿を知ることができます。
 この本の終り近くの「第12章 カサンドラの予言」には、次の記述がありました。
「重要なのは、これまで顧みられなかった多くの伝統治療薬――近代科学がたんなる民間伝承と位置づけてきたもの――の有効性を示す、たしかな科学的証拠が見つかったことだ。植物は、感染症に直面している人々の生活の質と寿命を向上させる力を秘めている。未来の医療を変えていける薬剤開発に向けて、わたしたちは植物の可能性を立証することができた。」
 そして「終章」には、次の記述が。
「たしかに困難な状況だが、希望がないわけではない。自然には、地球とわたしたちを癒すための秘密がある。人類は、時代、言語、文化の違いにかかわりなく、ほかの動物の植物使用法などを継続的に観察し、自然の豊かな恵みを使って実験をおこなってきた。欧米の科学者のあいだでは、このような植物成分の薬効に関する知識は、しばしばくだらない迷信として一笑に付されてきたが、けっしてそうではない。これらの伝統医療は、何千年もかけて熟成され、世代ごとに改良されてきた自然の薬局なのである。現代の科学者は、どの植物薬がもっとも効果的なのか、どのように作用するのか、どの化合物がもっとも重要なのかを完全には理解していないが、世界中で使用されているもっとも重要な医薬品のいくつかは、最初にこのような植物から発見されたことがわかっている。」
 ……現在、わたしたちを苦しめているCOVID-19の治療に役立つ植物を探す研究も進めてくれているようです。疾病の治療に役立つ植物の治癒力の発見に期待したいと思います。
 さまざまな困難を乗り越えてきた薬草の研究者が、その半生を自ら語ってくれる本です。女性研究者をめざす方には、特に参考になると思います。クウェイヴさんは、とにかくタフでパワフル。何度も困難にぶちあたっても、いつも前向きに自らが望む方向へと進んでいく姿から目が離せず、どんどん読み進めてしまいました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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