『歴史からでも楽しい! おもしろ日本音楽』2021/11/10
釣谷 真弓 (著)
日本音楽が歴史とどのように関連して形成されてきたのかを紹介してくれる本です。
「芸能・音楽が歴史とどのように関連して形成され、変遷してきたのか、その時代ごとの社会的状況とともに述べていくというのが主旨」だそうで、日本音楽とともに、その時代の歴史についても解説してくれるので、楽しく学ぶことが出来ました。「歴女」を自称するだけあって、分かりやすいだけでなく、ちょっとマニアックな説明がとても面白いのです。
日本の音楽の歴史はとても古いようで、古代のコトは登呂遺跡(弥生文化)でも発掘されているそうです。「第1章 倭の国と大和朝廷 古代人の楽器」には、次のように書いてありました。
「ヤマトことばで楽器をあらわす語にコト・フエ・ツヅミ・スズ・ヌリデがある。
楽器とボキャブラリーが少なかったこの時代、コトは弦楽器、フエは管楽器、ツヅミは打楽器を総称した語であった。(中略)
ヌリデとは、青銅器時代になって畿内を中心に出土している銅鐸のことである。鈴のように中に吊るす舌も発見されているので、音を鳴らして呪術の際に用いたと考えられている。中国の編鐘のように、さまざまな大きさのものが発掘されているので、叩いたり揺らしたりして異なる高さの音を鳴らしたのだろう。」
そして「第2章 律令国家の誕生 半島・大陸から芸能音楽の輸入」では次のように。
「文化の流入は音楽、楽器、舞踊においても例外ではなく、最初の音楽交流は半島との交流であった。
四五三年、允恭天皇の葬儀に新羅王が楽人八十人を参列させた。(後略)」
「注目したいのは、七〇一年の「大宝令」ですでに治部省のなかに「雅楽寮(和名・うたつかさ)」という官庁が設置されていて、音楽を仕事とする専門家が存在していたということだ。」
「正倉院とは、光明皇后が、七五六年に亡くなった夫・聖武天皇の遺品をおさめた倉のことである。その宝物が千三百年もほとんど当時のままの姿でのこされているのは、世界的にみてもたいへんめずらしい、貴重な遺産だといえる。
約九千点といわれる正倉院宝物には、宮廷儀式に使われた道具から、書、家具、装束、香木などの日用品まで、いろいろな種類の物がある。
そして、そのなかには十八種類、七十五個の楽器もおさめられているのだ。最近の研究では、日本でも製作できるようになっていたようだが、その原型はほとんどが大陸、半島から渡ってきた。
これだけの八世紀の楽器のコレクションというのは、世界でもほかに例がない。」
さらに「第3章 平安京のダークサイド 日本の雅楽が完成」では次のように。
「(陰陽道などと)おなじく芸能音楽も、儀式のなかの典礼音楽、つまり娯楽ではなく「礼楽思想」にもとづいた政の一部であった。飛鳥、奈良時代におとなりさんからどんどん入ってきたものを取捨選択、整理して日本の文化として確立した。その芸能音楽を「雅楽」と総称する。
雅楽という語は「雅な音楽」、つまり下々ではなく宮廷・寺社など身分の高い上流階級の層がたずさわったものをさす。
雅楽のなかの外来音楽には、舞を伴う「舞楽」と器楽合奏の「管弦」がある。」
「プロの音楽家、舞踊家は「雅楽寮」(のちに「楽所」も設置される)という機関に属して、「楽人」「舞人」として父子相伝で家の芸、技を伝える「楽家」を確立していった。
そして、なんと現在に至るまで芝、多(おおの)、東儀などの楽家が面々と存続しているのだ。現代では国家公務員として、宮中晩さん会などで洋楽もふくめて音楽を担当しておられるそうだ。」
「舞楽の場合、舞台の後方にあるオーケストラボックスで楽器が伴奏する。
器楽のみの合奏「管弦」の際は舞台上に奏者がすわり、「三管両弦三鼓」とよぶ八種類の楽器を通常十六人で奏する。東アジアでは、古代から管弦打楽器がそろったオーケストラの音楽が完成していたのである。西洋では、ようやく教会音楽のなかで二重唱が始まったくらいであった。」
……凄いですね。この本には、各時代の日本史と芸能・音楽の年表もあり、時代ごとにどんな音楽があったかが一目で分かるようになっています。例えば、「古代年表」によると、聖徳太子が冠位十二階を制定した頃、西洋ではグレゴリオ聖歌(単旋律)が行われていたようです。へー、そういう時代関係にあったんだと、すごく興味津々でした。
これ以降も、観阿弥・世阿弥の「能楽」の確立とか、キリシタンが入ってきた時代に西洋音楽や楽器も入ってきていたとか、さらに歌舞伎、人形浄瑠璃、などの芸能の歴史、箏、三味線や尺八などの邦楽器の発展(変遷)も知ることが出来ました。
このように古代から独自の進化をとげてきた邦楽の世界ですが、明治時代や第二次世界大戦後に、西洋音楽偏重が進んでしまったようです。……確かに、私自身もほとんど西洋楽器しか弾けませんし、楽器店に行ってもほぼ西洋楽器・楽譜しか見たことがありません……ちょっと残念なことですね……日本の伝統芸能・音楽は、大事に育んでいくべきだと思います。
それでも、ちょっぴり希望が持てそうな話もありました。
「二〇〇八年に能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎が「世界無形文化遺産」に登録された。(中略)翌年には雅楽や、京都祇園祭の山鉾行事、岩手の早池峰神楽などいくつかの民俗芸能も登録されている。」
そして「あとがき」には、現在のコロナ禍の状況とともに、次のように書いてありました。
「芸能によっては、千年以上の歴史をもっているが、その間には同じような状況が幾度もあった。疫病も、自然による大きな災害も、応仁の乱で京の町がほとんど焼けてしまうことも、第二次大戦で東京が焦土と化したこともあった。
しかし、伝統文化はそれらを乗り越えて今に伝わってきている。「文化は滅びない」と、著名な芸術家の多くが口をそろえて言う。いや、今私たちが、滅ぼさないように努力しなければならない。」
筝曲家で歴女の釣谷さんが、楽しく日本の音楽史を紹介してくれる本でした。音楽や歴史に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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