『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』2021/3/10
ポール・ナース (著), 竹内 薫 (翻訳)
ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースさんが、「細胞」「遺伝子」「自然淘汰による進化」「化学としての生命」「情報としての生命」の生物学5つの重要な考え方から、「生命とは何か」を考察している本です。
生命の仕組みに関する本ですが、語りかけるようなやさしい文体で、分かりやすく解説してくれる、一般向けの生物エッセイ集のような感じでした。
さて、「生命」の定義は諸説ありますが、ナースさんは、要約すると、次の3つの原理が合わさったものだと定義しています。
1)自然淘汰を通じて進化する能力。進化するために、生き物は、「生殖」し、「遺伝システム」を備え、その遺伝システムが「変動」する必要がある。
2)生命体が「境界」を持つ、物理的な存在であること。生命体は周りの環境から切り離されながらも、その環境とコミュニケーションを取っている。
3)生き物は化学的、物理的、情報的な機械である。自らの代謝を構築し、その代謝を利用して自らを維持し、成長し、再生する機械なのだ。
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そして一般的に「生命ではない」とされることも多いウイルスについては、「生き物」といってもいいのではないかと言っています。
「ウイルスは、細胞の生命の中で化学的に活性化して増殖中の「生きているもの」と、細胞外で化学的に不活性なウイルスとして存在している「生きてないもの」を循環している。」
「(ウイルスは他の生き物に完全に依存しているが、)よくよく考えてみれば、われわれも含め、生命のほぼすべての形態が、他の生物に依存しているではないか。(中略)完全にゼロから、自らの細胞の化学的構造を作り出すことができる動物や植物や菌類は、一つもいないのである。」
「生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている、と私は言いたい。」
……確かに。ウイルスは、どちらかと言うと「生き物」である側面の方が強いのかもしれません。
この他にも、生物学の概説的なものから、専門的なものに踏み込んだものまで、幅広く語ってくれます。
例えば、「細胞」というと小さいもののような気がしていましたが、大きいものもあるそうで、その一例としては「卵(黄身全体が一つの細胞)」とか、「神経細胞(背骨のつけねから足の爪先まで届く神経細胞。たった一個なのに長さは1メートル)」などがあるそうです。……そうか……黄身って、一つの細胞でしたね。
また、ミトコンドリアの話も読みごたえがありました。そのごく一部を紹介すると、次のような感じ。
「ミトコンドリアの主な役割は、生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことだ。だから、エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ40パーセントを占める。」
「あなたが食べるものの大部分は、最終的にあなたの細胞のミトコンドリアで処理される。ミトコンドリアは、食べ物に含まれる化学的エネルギーを利用し、おびただしい量のATPを作る。あなたの身体の何兆個もの細胞を支えるために必要な、すべての化学反応に燃料を送るため、あなたのミトコンドリアは、なんと、あなたの全体重に匹敵する量のATPを毎日作りだしている!」
毎日、全体重に匹敵する量のATPを! でも、そんなに食べていたっけかな? と驚きでしたが、実はATPはリサイクルされるので、体重が激減することもなく、体重分の食べ物をとる必要もないそうです。……ふーん。そうなんだ。
この本を読むと、私たちの身体がいかに精緻にコントロールされているかに、あらためて驚嘆させられます。生命進化って凄い……。
エッセイを読んでいる感覚で、「生命とは何か」を探りながら、生物学の一般的な知識を学び、さらにちょっぴり専門的な知識まで踏み込んでいくことが出来る本でした。興味のある方はぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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