『クマムシ調査隊、南極を行く! 』2019/6/21
鈴木 忠 (著)

 クマムシを研究している生物学者の鈴木さんが、南極観測隊の一員となって見た極地の自然と観測隊の日常を、貴重な写真とユーモアあふれる文体でつづる研究日誌(?)です。
 クマムシとは、緩歩(かんぽ)動物門に入る非常に小さな動物で、体長は1ミリに満たないそうです。四対八本の太い脚でノコノコ歩く姿がとてもカワイイのだとか。そして実は南極にたくさんいて、南極大陸の代表的な動物なのだそうです。南極にペンギンがいることは知っていましたが……クマムシやダニやトビムシ、そして体長5ミリ程度のユスリカもいて、ユスリカは南極のもっとも大型の陸上動物の一つなのだとか!
 この本は、クマムシに興味があって、というよりは、南極での研究生活に興味があって読み始めたのですが、最初の南極の地図にまず驚かされました。というのも、南極大陸に同じ縮尺での日本が添えて表示されていたから。南極大陸に対して日本があまりにも小さくて、南極大陸の意外な大きさを実感させられました。
 また鈴木さんは南極の夏隊員として参加したのですが、南極の夏は意外に暖かく、南極の寒さに備えるために、日本の乗鞍岳(厳冬期)で冬季訓練した時の氷点下14度が、結局一番寒かったのだとか(笑)。そうはいっても、もちろん夏でも南極はとても寒く、結氷との闘いは避けられないようでしたが……。個人的なイメージでは、南極は夏でも一面の雪原(氷原)という感じでしたが、口絵のカラー写真には、雪のない土色の山(もちろん草は生えていません)がたくさん写っていて、とても意外でした。
 ところで南極到達点一番乗りとしては、ノルウェーの探検家アムンセンさんたちが有名ですが、その一か月あまり後に南極点に到達した後に全滅してしまったイギリスのスコットさんたちの悲劇も同じように有名です。実は彼らには次のような違いがあったのだとか。
「ノルウェー隊が犬ぞりをうまく使ったのに対し、スコット隊は馬と発動機付きそりがうまく機能しなかったことなどのほか、アムンセンの目的がもっぱら南極点到達にしぼられていたのに対し、英国隊のおもな目的は南極の学術調査だったことが、大きな違いだった。スコットらは、死ぬ間際まで、重い計器や大量のサンプルを積んだそりを人力で運んでいたのだ。」
 ……そうだったんですか(涙)。現在でも、南極大陸では寒さによる機械の故障との闘いがあるのに、小屋一つない当時の南極大陸で、おそらく今のものよりずっと重い計器や、サンプルを運んだスコット隊、文字通り死ぬほど頑張ってしまったのですね……(涙、涙)。でも、彼らのような先駆者がいたからこそ、現在の南極があるのでしょう。
 さて、現在は「昭和基地」などでお風呂にすら入ることが出来る鈴木さんたち現代の隊員も、もちろん優雅な研究生活を送ったわけではありません。クマムシなどの生物採集のために南極大陸のあちこちに点在して生えているコケを探し、南極のあちこちに配置されている観測用機器の整備をするために、何度もテント生活(二週間ぐらい野外で風呂なし着替えなし)を送るのです。採取したクマムシは現地で軽く顕微鏡観察はするものの、実際に詳しく観察できるのはずっと後、南極にいる間は、ほぼ採集作業のみなのです。だから顕微鏡をのぞいている学究的仕事よりも、計器類の世話や、研究用資材などの荷物運びという肉体労働がメインのようでした(笑)。うーん……大変な仕事ですね。
 そして南極での楽しみは、南極旅行(?)の他には、やっぱり「食事」のようで、美味しそう(嬉しそう)な食事の話が多くて、微笑ましく感じました。他の隊員たちとも仲が良さそうで、だからこそ極寒の辛い生活を乗り切れたのでしょう。
 この本では、南極での研究者の生活の状況を垣間見ることが出来るだけでなく。砕氷船「しらせ」での一か月の旅(南極までは一か月もかかるんですね!)の様子も知ることが出来ます。「しらせ」が連続的に氷を割りながら進めるのは、氷の厚さが1.5メートルまでなのだとか。それ以上の厚さの氷は「ラミング」するそうです。ラミングとは、いったん300メートルほど後戻りした後、全速力で突進してズシンと氷にぶつかり、そのままズリズリと艦首を氷上に乗り上げる(その時、艦首の下方から大量の水を噴射して摩擦を減らす)と、船の重みで氷がミシミシと音を立てて割れていくことなのですが、なんと一回のラミングで割れないこともあるようで、何回もやることがあるそうです。艦の前後の海中に、ぎっしり詰まった氷の塊の中を動きまわるのは、大変危険だそうで、特に後退する時は、氷の塊でスクリューを壊さないような神業的操船が必要になるのだとか……うーん、それも大変な仕事ですね。揺れも凄そう……。
 その他、ヘリコプターでの移動とか、ペンギンとの出会いとか、興味深い南極話もたくさん読むことが出来ました(写真もあります)。夏の南極生活がどんなものか、リアルに知ることが出来る本。野外研究に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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