『陸の深海生物: 日本の地下に住む生き物』2023/11/14
小松 貴 (著), じゅえき太郎 (イラスト)

「生きた歴史書」とも呼ぶべき学術的な価値がありながら、一般にはほとんど知られていない日本の地下に住む生き物たち。ふだん日の目を見ない彼らに情熱を注ぎ続ける昆虫学者の小松さんが、貴重な写真と共に、足もとの暗闇に広がる別世界のことを紹介してくれる本で、約140種の貴重な写真も掲載されています。
 冒頭には次のように書いてありました。
「地下は、ただ土が詰まっただけの場所ではない。無数の亀裂が走り、そこに挟まりつつ生きるものたちが沢山生息する。暗黒生活に適応した彼らは、視覚の代わりに周囲の状況を鋭敏に察知するセンサーを搭載した、まさに「陸の深海生物」と呼ぶに値する連中だ」
 そして……
「洞窟内に見られる生物は、そのスペックにより3~4つのカテゴリに大別できる。一つ目は、地下生活に究極に特化した、正真正銘の洞窟生物(真洞窟性生物)である。自発的に地上に出てくることのないこうした生物たちは、分類群の垣根を越えておおむね共通した形態的特徴(眼が退化する、皮膚が薄くて体の色素が薄い、触覚や脚が異常に細長い)をもつ。」
 この真洞窟性生物の他、好洞窟性生物(洞窟内を好むが、それ以外でも生きられる)、周期性洞穴性生物(周期的に洞窟内外を往復する)、迷洞窟性生物(たまたま迷い込んできた)などの生物がいるようです。
 このうち真洞窟性生物の場合は、体の構造も地下に特化しているようです。次のように書いてありました。
「(前略)地下性甲虫の場合、これらの特徴に加えて、地下性傾向がより強い種ほど体形がヒョウタンのようにくびれ、体高が盛り上がるという形態的特徴(専門的にはアファエノプソイドahpaenopsoidと呼ばれる)が見られる。これは、腹部の背面にお椀状に変形した鞘翅(しょうし)がかぶさっているような状態であり、つまり腹部と鞘翅との間に空間ができているのだ。地下は湿度がとても高く、あらゆる物が結露する。こんなところに通常の形をした地上生甲虫がいようものなら、たちまち腹部と鞘翅の間に水がたまり、結果として腹部にある気門(昆虫が呼吸するための器官)が水でふさがって、陸にいながらおぼれてしまう。無駄を極力削り、必要最小限のものだけを究極に研ぎ澄ませた生物の極致、それが彼ら真洞窟性生物である。」
 ……地下は、普通の甲虫なら「陸にいながらおぼれてしまう」ほど過酷な環境なんですね……。

 冒頭で、このような基礎知識を学んだあとは、いよいよたくさんの陸の深海生物の写真・解説が始まります。
 最初に登場するのは、「節足動物部門・甲虫目・オサムシ科:チビゴミムシ亜科」なのですが、「XXチビゴミムシ」という名前の小さい虫が、すごくたくさんいて驚きました。
 地下には、こんなにも色々な種類の生物がいたんですね! 本書では、日本の地下空隙に生息する生物(節足動物、扁形動物、軟体動物)のうち、代表的な約140種が収録されています。小さくて地味な彼らは、石灰採掘鉱山では、ひっそりと絶滅してしまうこともあるようです……。
「地下に生息する微小な生物たちは、洞窟ではなく地下水脈を拠点にして生きていると考えられる。原則として、地下に生息する生物は乾燥にとても弱く、湿り気から離れては生きられない。」
 ……彼らは暗くてじめじめした場所が好きなのでしょう。
 日本の地下に、こんなにもいろんな生物が暮らしていたことに、驚かされる本でした。
地下という人間にもアクセスしにくい場所である上に、小さくてどこにでも隠れられる生物ばかりのせいか、なかなか見つからない生物を必死で見つけようとする小松さんの文章には、ときどきユーモアが混じっていて、大変なんだなーと思いながらも、思わずクスっと笑わされてしまいました。
 地下世界探検、なんか魅力的ですね☆ ……すぐ近くでも体験できそうですが……実際にやるのは大変そうです。地下世界探検のための、次のようなアドバイスもありました。
1)山岳保険(ケイビング中の事故もカバーするもの)に入る
2)運悪く遭難した場合に備えて予備の懐中電灯、非常食を持つ
3)斜面では落石を落とさない、落とした時は下の者に知らせる。崖に穴を開けたら埋め戻す。
4)単独行動を避ける
5)可能な限り洞窟の内部構造を頭に入れておく(事前の情報収集を行う)
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『陸の深海生物: 日本の地下に住む生き物』……日本の地下に、こんな不思議な生物の世界が広がっていたことに、興味津々でした。生物が好きな方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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