『竹取工学物語 土木工学者,植物にものづくりを学ぶ (岩波科学ライブラリー 320)』2023/7/12
佐藤 太裕 (著)

 適度に硬く、しなやかな中空円筒構造……竹取の翁の時代から日本人の生活に溶け込んできた竹に魅せられた研究者の佐藤さんが、竹などの植物を工学の視点から考察している本で、岩沼書店の雑誌『科学』での全七回の連載を取りまとめたものです。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「この「竹取工学物語」では、これまで工学の分野で構造力学・材料力学を専門として研究をしてきた私が、竹やその他の植物の不思議な形状を工学の視点から解明した結果、見えてきた新しい科学的発見を皆さんに紹介していきます。」
 適度に強く、適度にしなやかで、穴が空いていて丈夫な材料である竹とは、次のようなものだそうです。
「(前略)竹には1日に1メートル近く高さを伸ばすほどの、驚異的な成長力、生命力があります。さらに、私たちの目線(地上)からは竹は一本一本独立しているように見えても、実際には近くの竹同士が土の中で地下茎を介してつながっており、単独して生えているわけではありません。」
 ものの設計、ものづくりにおいては、「想定する範囲の力に抵抗できる強度と剛性がある」ことは最低条件だそうで、竹は次のような構造で、それを実現しているようです。
「竹は穴が空いている中空円筒構造で、その力学的弱点を補うために節がある。維管束の配列もうまく強さと硬さを増すことに貢献している。そして先端に向かって細くなる。こういったことは、構造物における形の重要性を私たちに示唆するものです。」
 植物の構造を研究することは、土木や建築構造を考える上でも、とても参考になるようです。次のようにも書いてありました。
「(前略)動物は周辺環境が嫌になれば、移動して場所を変えることができますが、植物は一度根を張ってしまえばそこの環境に順応せざるを得ません。」
 この後は、植物がいかに巧みに「風」や「自重」という力に対応しているかに関する構造力学的な解説が続いて、とても興味津々でした。
 竹は次のような構造をしているようです。
1)節と節の配置間隔は、根本と先端付近で短く、中央部付近で長い
2)円筒ではなく円錐形
3)縦方向に貫く繊維(維管束)分布が内側より外側に多く存在する
 ※維管束=植物の茎を通っている、養分や水分を運ぶ管の集まり
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 竹は木質部と維管束で構成される「自然の複合構造」で、曲げられることに対して巧みに節間長、厚さ、半径をコントロールし、節を必要なところに必要なだけ配置して、軽量・高強度・高剛性を同時に達成している凄い植物のようです。
 竹の素晴らしい「しなり」という特性を活かして、釣り道具や練習用バットなど、さまざまな用途に使われている他、「適度にしなやかで、細かく加工できる」特性を生かして、茶筅や竹箒に使われている他、なんと札幌のササラ電車のササラにも使われているのだとか。
 さらに次のようにも……
「(前略)構造の視点から、潜在的可能性が大きいのはやはりタワー構造でしょう。(中略)竹の独特な中空、先細り(テーパ―)形状は、軽くて丈夫、かつ安定して自身を高く保ち、風をうまく受け流すことができます。この特徴を活かした構造の一例としては、風力発電に用いられる風車が挙げられます。(中略)
 風車は高い位置で羽根を回転させ、強風に耐える必要があります。風に耐えて高く成長する竹と、要求される性能は似ています。そう考えると、風車のタワー部の設計で、力学的な合理性を追求すると辿り着く答えが竹、というのは突飛なようで実は極めて自然、ともいえるでしょう。」
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『竹取工学物語 土木工学者,植物にものづくりを学ぶ』、竹に関して、構造力学的な視点からじっくり解説してくれるので、とても新鮮で面白く読めました。文章もとても滑らかで、技術的な話が多いにも関わらず、意外なほど読みやすかったです。興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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