『クライメット・ジャーニー: 気候変動問題を巡る旅』2023/4/1
蒲 敏哉 (著)

 東京新聞(中日新聞)社会部記者として蒲さんが取材した国連気候変動枠組み条約締約国会議や、沖縄県・辺野古の米軍基地移設問題などの「現場」からの報告を中心に、欧州の気候変動政策を学ぶために留学したドイツやイギリスでの経験なども含めてじっくり語ってくれる、蒲さんの「気候危機」取材30年の航路を描いた本です。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「私自身のこれまでの取材人生を一つの「旅」と捉え、その足跡を硬軟織り交ぜながらまとめたのが本書である。地球規模の気候・環境問題をともに考えていくための、「クライメット・ジャーニー」の世界に皆さんを誘いたい。」
「第1章 コロナ禍がもたらした「三つの敵」の時代」では、まさに今、私たちがこの現代社会をどう「より良く」作り直していくべきか、を問いかけています。
この「三つの敵」とは、「コロナ」「温暖化」「放射能」。
 なかでも「気候危機」に関しては、国際会議が何度も開かれているにもかかわらず、各国の利害状況がぶつかりあって、なかなか進んでいかない状況が詳しく書かれていました。
 1997年のCOP3で、地球温暖化対策への初めての国際的取り決めの「京都議定書」が作られ、温室効果ガスの削減に取り組むはずだったのに、当時の最大CO2排出国の米国が離脱してしまったり、議定書で「発展途上国」と位置付けられて排出責任を負わない中国に、米国をはじめとする先進国が不満を示したり……各国の利害の衝突で二転三転していったのです。
 その後の2015年のCOP21で採択されたのが、京都議定書に代わる新たな枠組み「パリ協定」。残念ながらこれには法的拘束力がなく、温室効果ガスの削減基準も「各国の自主性」に委ねられているので、地球温暖化対策がどれだけ進むのかに関しては、あまり明るい見通しがたたない状況のようです。
それだけでなく、ご存じの通り、次のような問題も発生しています。
「(前略)ロシアのウクライナ侵攻は、世界のエネルギーの受給体制に多大な影響を与えながら、国際政治の構図自体を大きく変え、今後はCOPの交渉の在り方をも左右していくに違いない。
 このことは、世界の気候変動対策がウクライナ戦争を起因とするエネルギー問題に影響を受けながら動いていくことを意味する。」
 ……ウクライナでの戦争はCO2を盛んにまき散らしているように見えますが……北の国のロシアはこの戦争で、温暖化による利益も狙っているのでしょうか? ……とても残念なことですが、生物にとっては「生存競争」も本能の一つだと思うので、たとえウクライナでの戦争が終結したとしても、地球のどこかで発生する戦争を完全になくすことは、残念ながら不可能なのでしょう。エネルギーのかなりの部分を他国に依存している日本は、この状況を教訓に、水力・太陽光・風力など「自国で生産可能なエネルギー」について真剣に考えていくべきだと思います。
 また本書では、生物多様性の問題についても触れていました。
「気候変動問題と並び、地球環境にとって喫緊の課題とされているのが生物多様性問題だ。国連には環境問題についての条約が三つある。気候変動枠組み条約(一九九四年発効、二〇二二年一〇月現在一九七カ国批准)、生物多様性条約(一九九三年発効、同一九四カ国批准。米国未加盟)、砂漠化対処条約(一九九六年発効、同一九六カ国批准)である。これらの条約批准国が開催する締結国会議はいずれもCOP(Conference of Parties)と呼ばれ、三大環境条約会議として位置づけられている。」
「同条約(注:生物多様性条約)の目的は、「生物の多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」の三つとされる。三つ目については、「利益配分」のほかに「天然資源に対する主導的権利」や「アクセスの事前同意と契約」等も盛り込まれている。(中略)各国はこの条約をめぐっても激しくぶつかり合っている。」
 ……という状況にあるようですが、これについては、2010年のCOP10で、「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」と、「愛知目標」が決められたそうです。
 愛知目標とは、次の5つの戦略目標です。
A:生物多様性の主流化と、生物多様性の損失の根本原因への対処
B:生物多様性への直接的圧力の減少と持続可能な利用の促進
C:生態系、種及び遺伝子の多様性の保護と生物多様性の状況の改善
D:生物多様性及び生態系から人類に寄与される恩恵の強化
E:参加型計画の立案と、知識管理及び能力開発を通じた実施の強化
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 ……生物多様性に関しても、各国の利害が激しく衝突しているようですが、少なくともこのような目標が掲げられたことは良いことだと思います。これらの項目を見る限りは、「誰が見ても反対しにくい理想の方向性」を示しているようですが……こういう「正論」だけでも参加国で決めておけば、身勝手な自己主張をしてくる国に、「正論」とのずれがないかを指摘することで反省を促せるようになると思います。
 気候や生物多様性など、各国の利害が対立するような問題が、みんなの努力で少しずつでも良い方向へ進んでいくことを願っています。
 さて、本書は、環境問題に深く関わってきた蒲さんの取材人生の旅(クライメット・ジャーニー)。「第二章 欧州の気候変動対策」では、欧州の気候変動政策を学ぶために留学したベルリン自由大学環境政策研究所や、オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所での経験など蒲さん自身のことの他、身重で英独で暮らしベルリンで長女を出産した奥さまや、現地校に通った息子さんなど、家族についての話もあり、これから海外留学や駐在の予定がある方にとって、参考になる話がたくさんあると思います(もちろん欧州の気候変動への取り組み方の話もあります)。
 さらに「第三章 太平洋諸国と環境問題」では、太平洋の島嶼国から米軍に入隊しイラク戦争で戦死した若者や、海面上昇で存続が危ぶまれる謎のナン・マドール遺跡(ミクロネシア連邦)、塩害に脅かされるフィジーなど、特別報道部時代に取材したときの話もありました。
 環境問題を中心に、国際的な問題の状況を教えてくれるとともに、ジャーナリズムの仕事の現実についても語ってくれる本でした。ジャーナリストを目指す方はもちろん、環境問題に興味のある方、海外での仕事を考えている方も、ぜひ読んでみてください。
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