『異端の数ゼロ――数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) 』2009/5/5
チャールズ・サイフェ (著), 林 大 (翻訳)

 この数字がすべてを狂わせる――ゼロ。この数字がもたらす無と無限は、いかに人類の営みを揺さぶり続け、文明を琢磨したのか? 数学・物理学・天文学から宗教・哲学までを駆け巡って、ゼロのもつ力を教えてくれる本です。
 第0章には、次のように書いてありました。
「本書は、ゼロの物語である。ゼロが古代に生まれ、東洋で成長し、ヨーロッパで受け入れられるために苦闘して、西洋で台頭し、現代物理学にとって常なる脅威となるまでの物語だ。」
 ……東洋のインドが数字の「ゼロ」をつくり、インドやイスラムなどの東洋がゼロや負数で自在に数式を操れるようになった一方で、西洋は長い間「ゼロ」を受け入れなかった……ということまでは知っていたのですが、西洋が長い間「ゼロ」を受け入れなかったのは、「ゼロと無限大を斥けることによって、ゼノンのパラドクスを片づけた」ほどの力を持つアリストテレスの哲学体系と衝突したからだそうです。次のように書いてありました。
「(前略)ゼロは西洋世界の根本的な哲学体系と衝突したのだ。ゼロのうちに、西洋世界の教義にとって有害な概念が二つ潜んでいたからだ。この二つの概念は、やがて、長らく君臨したアリストテレス哲学を崩壊させることになる。その危険な概念とは、無と無限である。」
 それでも頑固な西洋(およびキリスト教)も、貿易にゼロが必要になり、結局はゼロを受け入れていったようです。
 ……ゼロの歴史は数学の歴史だけでなく、哲学などの思想と深い関係があったんですね。
 そしてゼロは熱力学も生み出すことになるそうです。次のように書いてありました。
「絶対零度は、気体の容器がエネルギーをすっかり失っている状態だ。これは現実には到達不可能な目標である。物体を絶対零度にまで冷やすことはできない。すぐ近くまでは迫れる。物理学者はレーザー冷却のおかげで究極の冷たさの100分の数度上まで原子を冷やすことができる。ところが、宇宙のあらゆるものが一致して、絶対零度の実現を阻もうとする。エネルギーをもつ物体は必ず揺れ動いている――そして光を発している――からだ。」
「絶対零度はニュートンの法則と大いに趣の異なる発見だった。ニュートンの方程式は物理学者に力を与えた。物理学者は惑星の軌道など物体の運動をたいへん正確に予測できるようになった。一方、ケルヴィンが発見した絶対零度は物理学者に、自分たちには何が“できないか”を教えた。絶対零度に達することはできないのだ。こういう障壁があるという知らせに物理学会は落胆したが、これは、物理学の新しい分野、熱力学のはじまりとなった。」
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 さらにゼロは、量子力学や相対性理論にもつながっていきました。
「真空のエネルギーの変動は質量の変動と同じことだ。素粒子は絶えず生まれたり消えたりしている。(中略)真空はけっして本当に何もないのではない。それどころか、仮想粒子で沸き返っている。空間のあらゆる点で、無限個の仮想粒子が現れては消えている。これがゼロ点エネルギー、量子力学の公式に出てくる無限大だ。」
「量子力学と相対性理論が併存するところにはゼロがある。二つの理論が出会うところにはゼロがあり、ゼロが二つの理論の衝突を引き起こす。ブラックホールは一般相対性理論の方程式のなかにあるゼロだ。真空のエネルギーは量子力学の数学に現れるゼロである。宇宙史上もっとも謎めいた出来事であるビッグバンは、どちらの理論にも含まれるゼロだ。宇宙は無から生まれた。そして、宇宙の歴史を説明しようとすると、どちらの理論も破綻してしまう。」
「ゼロは、物理学の大きな謎すべての背後にある。ブラックホールの無限大の密度は、ゼロで割った結果だ。ビッグバンによる無からの宇宙創造も、ゼロで割った結果である。真空の無限大のエネルギーも、ゼロで割った結果だ。だが、ゼロで割ることは、数学の基本構造と論理の枠組みを破壊する。そして、科学の土台そのものを掘り崩す恐れがある。」
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 ……ゼロというのは、座標の中心点とか、何もない、を表す数とか、そんな単純ものとして理解していましたが、この本を読んで、実はとてつもない破壊力があるものだということを知りました。
 本書の後半、量子力学や相対性理論などの話は、正直言ってあまり理解できたわけではありませんでしたが、少なくとも前半は、数学の歴史や、ゼロや無限大がなぜ長い間受け入れられなかったのかを知ることが出来て、とても有意義だったと思います。ちょっぴり賢さがレベルアップしたかも……(笑……たぶん気のせいです)。
 とても興味深くて勉強にもなる本でした。数学や科学が好きな方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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