『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法 (ブルーバックス)』2021/5/20
向井 千秋 (著, 監修), 東京理科大学 スペース・コロニー研究センター (著, 編集)
「宇宙で人が暮らすためには?」……水・食料・エネルギーの確保は? 心身の健康や環境維持は? ……極限の閉鎖環境の中で人が暮らすためには、さまざまな技術が高いレベルで要求されます。この人類史に残る計画に向けて設立された「東京理科大学 スペース・コロニー研究センター」の研究・開発の詳細を徹底解説。人類の「宇宙生活」のために進められている技術開発の最前線を、それぞれのトピックスごとに詳細に紹介してくれる本です。
『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』というタイトルだったので、未来の夢物語を描いたホンワカしたSF風の内容かなーと思ってしまったのですが……この一冊で、宇宙開発の歴史から近未来への最新情報までの概要が分かってしまうという、とんでもなくガチで充実した内容に驚かされました。
第1章は宇宙開発の歴史、第2章では長期宇宙滞在で遭遇する課題、第3章では居住環境の構築、そして第4章は食料の確保のための宇宙農業、第5章は電力源、第6章は水と空気の再生、さらに終章ではこれらの技術が人類の未来に向けて役に立つことまで解説されています。
とりわけ3から6章にかけては、それぞれの技術がかなり具体的に紹介されていて、うわー、そんな技術が開発されていたんだ! と驚かされるものが多数ありました。
例えば「バイオ燃料電池(生体触媒を電極触媒として利用する燃料電池の一種)」については、次のような記述が……。
「このようなバイオ燃料電池のウェアラブル・デバイス用電源としての優位性は、比較的低コストで高容量化が可能であり、配線や電極触媒を紙や不織布などに印刷することで柔らかくて軽く、生体親和性の高いフレキシブルな電池を形成できることです。また、体液を燃料とすることも可能であり、体液中の成分(例えば汗中の乳酸)で発電し、自動でデバイスを駆動または充電することも可能になります。汗や尿または唾液中の成分で発電し、その出力を用いて無線通信デバイスを駆動させることもできます。このとき、体液中の成分濃度が高いと発電量が大きくなるため、無線通信デバイスの通信頻度が高くなります。これを利用して体液成分を測定する自己駆動型ウェアラブル・デバイスの実用化も期待できます。」
……このバイオ燃料電池の基盤には紙が適しているそうで、「紙の電池をおむつに組み込んで、尿をしたときの尿糖で発電する酵素型バイオ電池」も開発されているそうです。尿をしたことの検知や、尿糖のモニタリングも可能で、介護や健康管理に役立つことも期待されているのだとか。
そして運動選手のトレーニングに役立ちそうなのが、次の「乳酸バイオ燃料電池」。
「(前略)体に貼って、人体の汗から発電し、汗中に含まれる乳酸値のリアルタイム・モニタリングにも成功しており、これはトレーニング時の運動強度のモニタリングに役立つため、現在実証試験を進めているところです。また、印刷で布上に作成したフレキシブルなバイオセンサやイオンセンサを組み合わせることで、汗中のさまざまなバイタルサインを同時に取得する試みも進められています。」
……体液を燃料にするなんて、凄い発想ですね!
また「宇宙農業」に関しては、スペースコロニー研究センターとJAXAの共同研究の次の「袋培養技術」も、いろんな場面で役立ちそうに感じました。
「袋培養技術は、数リットル程度の容量の袋内で、液体培地により大量に植物組織培養を行う植物栽培手法です。培養袋に培養液と植物を収納して袋上部の開口部を密閉し、温度、湿度、照明を葉や茎の増殖に適した状態に維持することができます。(中略)これは保存の難しい生鮮食品を効率よく、無駄なく栽培できる手法だといえます。また、植物は袋の中で栽培されるため、病害虫などの侵入を防ぎながら苗供給をすることもできます。さらには緊急時の食料バックアップとして活用することも可能です。」
……これも、レタスやジャガイモなどの実験で、栽培可能であることが確認されたようです。
さて2019年に米国は、アルテミス計画(2024年までに人類を再び月面に降り立たせるとともに、火星など深宇宙探査への拠点として、月周回軌道に小型の宇宙ステーション「ゲートウェイ」を構築するという計画)を発表しました。これには日本も参加しているようです。……月周回宇宙ステーション「ゲートウェイ」……なんか未来っぽくて凄そうですね。次のように書いてありました。
「「ゲートウェイ」は、ハビテーション&ロジスティクスアウトポスト(HALO)とよばれる電力・推進要素と乗務員用のキャビンから構成されています。これにより、地球から運ばれた食料や燃料などの補給品をより簡単に受け取ることができます。
将来的に「ゲートウェイ」は、燃料補給所、整備プラットフォーム、および月やその他の天体からのサンプルを処理するための科学研究の拠点となり、さらに商業的な目的においても活用されることになります。月面へのアクセスと着陸システムの再利用という長期的な目標をかかげて現在、開発に取り組んでいます。」
……この計画は、火星探査の前哨基地となる月面基地建設、さらには月や火星などに長期滞在する方向へ進むためのもので……まさに「スペース・コロニー 宇宙で暮らす」ことは、現実になりつつあるようです!
宇宙開発の歴史から最前線まで、かなり総合的にみっちり学べる本でした。とても勉強になる興味深い記事が満載ですので、みなさんもぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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