『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』2020/12/17
吉森 保 (著)

 生命科学の基本から、抗体やウイルスの話、さらに「オートファジー」を中心に最先端の知見までを分かりやすく教えてくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 科学的思考を身につける
第2章 細胞がわかれば、生命の基本がわかる
第3章 病気について知る
第4章 細胞の未来であるオートファジーを知ろう
第5章 寿命を延ばすために何をすればいいか
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 どんな病気も「細胞」がまず悪くなることなので、基礎である「細胞」の理解から始めて、さまざまな「体」にまつわることを教えてもらえます。
 特に「第3章 病気について知る」では、どんなときに細胞がおかしくなる(病気になる)のかとか、免疫はどのように働くのかとか、病気についてさまざまなことを知ることができて、とても参考になりました。
 ちなみに、「細胞がおかしくなる代表的パターン」には、次のようなものがあるそうです。
1)細胞内にタンパク質の塊が溜まってその結果死んでしまう
2)ウイルスなどの病原体に殺される
3)細胞内の「原発事故」が原因で細胞が死ぬ
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 細胞内の「原発事故」とは、ミトコンドリアが壊れるような事態のことで、ミトコンドリアが傷つくと、「毒」にもなる活性酸素などが大量に出たり、細胞を自然死させる物質が漏れ出たりすることがあるそうです。(なお活性酸素は、体内に侵入した細菌やウイルスの攻撃から体を守ってくれる大事な物質でもあります)。
 また吉森さんは、2016年にノーベル賞を受賞して話題になった「オートファジー」の世界的権威でもあり、「第4章 細胞の未来であるオートファジーを知ろう」では、そのオートファジーについて、詳しく知ることが出来ました。オートファジーは、「細胞の中の物を回収して、分解してリサイクルする現象」のことで、なんと細胞を「若返らせる」機能があるそうです! 次のように書いてありました。
「オートファジーは、簡単にいうと細胞の中の恒常性を保つ役割をするものです。」
「オートファジーは、隔離膜という平たい膜ができることで始まります。(中略)そして、この膜が伸びながら形を変えて、そこらへんにあるタンパク質などを包み込んでいきます。(中略)そして、最後に膜が閉じて壺から球体の袋になります。これを「オートファゴソーム」と呼びます。
 そのあと、分解工場であるリソソームまで運ぶのですが、これら一連の過程をオートファジーと呼びます。」
「細胞内には、「リソソーム」というオルガネラがあります。これは、消化酵素が入っている袋で、ここであらゆるものを分解しています。」
 ……オートファジーはこんな感じに体内のリサイクル活動を行っていて、次の3つの役割を果たしているそうです。
1)飢餓状態になったときに、細胞の中身をオートファジーで分解して栄養源にする
2)細胞の新陳代謝を行う
3)細胞内の有害物(病原体など)を除去する
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 オートファジーは新陳代謝だけでなく、自然免疫の機能も果たしているんですね。ただ……こんな素敵なオートファジーは、残念なことに、歳をとると働かなくなってくるそうです。
 そこで「第5章 寿命を延ばすために何をすればいいか」では、次のような「オートファジーが活性化する方法」が書いてありました。なんと「寿命を延長することをすると、オートファジーが活性化する」のです!
 一般的に、寿命を延ばすと言われている5つの方法は次の通りだそうです。
1)カロリー制限
2)インスリンシグナルの抑制
3)TORシグナルの抑制
4)生殖細胞の除去
5)ミトコンドリアの抑制
 ……え? なんか生きるために必要なことを抑制すると長生きすると言っているような……でもなぜか、これらの方法が科学的に有効だとされているようです。
 そしてオートファジーと病気の関係のまとめ(オートファジーが防御的に働くもの)は、次の通りです。
1)生活習慣病
2)神経変性疾患
3)肝臓がん
4)腎臓の病気
5)心不全
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 ……これらが防御できるなら、ぜひオートファジーを活性化したいと思います。しかも「オートファジーには老化を抑制する可能性がある」そうです!
 そして日々の活動でオートファジーを活性化させるには、「腹八分で、運動する、脂っこい食事を避ける」ことが重要だとか……あれ? 意外に「ごく一般的な健康法」と同じような……。
 また、オートファジーを活性化させる食品は、次のようなものだとか。
・「スペルミジン((納豆、味噌醤油、チーズ、シイタケなどのキノコ類に含まれる)」
・「カテキン(お茶などに含まれる)」
・「アスタキサンチン(サケ、イクラ、エビなどに含まれる)」
・「ポリフェノールの一種のレスベラトロール(ブドウや赤ワインなどに含まれる)」
 ……これらも「健康のために摂取すべき食品」の常連たち……やっぱり「普通に健康によい」とされていることは、ちゃんと「オートファジーを活性化させる」もののようです。
 長生きへのヒントももらえる『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』でした。
 長寿のための健康法について知ることができるだけでなく、その科学的な根拠や、科学的思考法についても学ぶことができます。とても参考になりますので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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