『実践 埋蔵文化財と考古学: 発掘調査から考える』2022/1/5
水ノ江 和同 (著)

 全国で年間約8千件も行われている発掘調査は、どのように行われるのかについて具体例で紹介してくれる本です。
「第1章 遺跡をもう一度掘る、考え直す」には次のように書いてありました。
「現在、遺跡は大きくは以下の二つの方法で再評価が行われています。一つ目は、かつて発掘調査した場所をもう一度堀り直して、土層断面の再確認や掘り残された部分を改めて発掘調査する方法。二つ目は、かつての発掘調査成果を改めて最先端の考古学的手法と視点に立って見直す方法。」
 この再評価には、新たな分析手法の開発・応用もなされていて、例えば、微細試料分析(花粉分析、プラントオパール(植物珪酸体)分析、圧痕レプリカ法など)、自然科学分析(蛍光X線分析、炭素・窒素同位体分析、DNA分析、放射性炭素年代測定におけるAMS法の導入など)が行われているそうです。
 ところでこの本は、『実践 埋蔵文化財と考古学: 発掘調査から考える』というタイトルだったので、発掘調査の詳しい実態(実測や分析方法などの詳細な説明)を説明してくれるのを期待していたのですが、数多くの事例の概要紹介が多くて、各発掘現場での詳しい作業内容とか、科学的分析の詳しい方法などの説明はありませんでした。その点が少し残念でしたが、新しい情報をいろいろ知ることが出来ました。
 例えば、日本列島に2,443遺跡ある縄文時代の貝塚のうち、海のない埼玉県にも、なぜか170遺跡もあるのですが、それは、縄文時代前期、地球温暖化により海水面が現在より2~3mほど高くて(縄文海進)、東京湾が北側に40kmほど深く入り込み、埼玉県まで達していたからなのだとか……そうだったんだ。
 そして発掘調査の具体的事例のごくごく一部を紹介すると以下のような感じ。
・宮城県松島町の瑞巌寺の大修理に伴う調査:地盤強化のためコンクリートベタ基礎を新たに構築する必要があり、本堂の地下遺構の確認のための発掘調査(瑞巌寺の前に現地にあった、中世の円福寺関連の遺構が確認された。)
・山口県山口市の龍福寺本堂の解体修理のための発掘調査(地下遺構を保存しながらの発掘調査では、旧龍福寺本堂の構造や建立年代が文献史料の内容と一致することで、歴史的事象が確定的になった。)
・大分県大分市の亀塚古墳の復元整備(全復元だと維持管理や修理にかかる手間と費用が多額になる可能性を考慮しつつ、葺石が前面に貼られていた事実と、朝顔形埴輪を挟みながら円筒埴輪が巡る状況などが視覚的にわかる工夫をした。)
……などなど(本書内では写真も使って、詳しく紹介されています)。
 ところで古い建築物などは、維持管理や「町おこし」など、さまざまな要素と関連していますが、個人的には、今後はAR技術を使うという方法もるのではないかと思います。例えば、建物がすでに失われている遺構などで、AR用メガネかタブレット端末を実際の風景にかざすと、かつてそこにあった建物が表示される……というような「復元」をすると、現場保存と、歴史建築物を活かした町おこしの両方が可能になるかもしれません。維持管理費も少なくて済むし……。
 そんな妄想はともかく(笑)、この本で、発掘調査の概要などを知ることが出来ました。巻末には、「資料編 国指定特別史跡と史跡」があって、各県の遺跡の名前を一覧で知ることもできます。興味のある方は読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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