『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』2021/10/22
岡本 隆司 (著)
気候変動、人口動態、経済ネットワーク……アジア史の視点から日本史を俯瞰的に捉え直している『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』です。
中国と日本の歴史は、大きく違っているそうです。東洋史・中国歴史が、農耕定住と草原放牧という人間の二元構造を如実に反映している(農耕民と遊牧民のせめぎあいが続く)のに対して、日本にはそれがなかったから……日本は昔から、大きな差がなくて一つにまとまりやすい人々で構成されていて、中国とは違う歴史をたどることになったようです。
「(前略)日本の歴史は中国をコピーすることから始まります。しかし国家を形成するにつれ、コピーでは社会とマッチしないことに気づいて、土着化・土俗化していきました。やがて平安時代後期あたりから地球は温暖化に向かい、東アジア全体が活気づいて多元化してくると、日本も地に足のついた、土着の民間主導の開発・交易が盛んになるとともに、武家社会という独自の土俗的な政治体制を作り上げていきます。
そして、東アジア発展の末に誕生したモンゴル帝国とは、社会・経済・政治の次元が違い過ぎて一線を画すことになり、構築した独自のシステムを発展させていきました。これが一三世紀の日本の状況であり、次の時代への前提となるのです。」
……実は六世紀末の「隋」は、寒冷化する気候に対応すべく統治体制の再構築が迫られるなかで誕生したものだそうです。そしてその後の「唐」の影響も大きく受けながら日本も国家形成を始めたのですが、やがて気候が温暖化すると人とモノの動きが活性化して、寒い時代の律令に収まらなくなってきて、それまでと違う勢力(日本の場合は武家)が力を持つようになったり、地方が活性化し始めたりしたのだとか(これは西洋を含め、世界的な傾向だったそうです)。
この本は、このように、中国や東洋さらには世界と日本の関係で、歴史の推移がなぜそのようになったのかを解説してくれるので、なるほど、そういう合理的理由があったのかーと納得してしまいました。
そしてすごく勉強になったのは、近代以降の日中関係。なんと中国が「日本をモデルに」成長していこうと動いた時代があったそうです。……日本は大昔から中国をコピーしてきた国だと思っていたので、まさか中国側から日本をコピーしようとした時代があったとは思いませんでした。それは二十世紀初期のこと。西洋の影響を受けて日本が急激に西洋化(文明開化)したのに対して、中国はそれに遅れをとってしまったそうです。大航海時代以降、西洋文化が急激に入ってきたとき、中国は西洋文明の一部を受け入れただけでした。日本と違って中国社会はバラバラで流動的だったので、「西洋の衝撃」を吸収してしまったのだそうです。……なるほど……というか……日本は古くから中国をコピーするなど外国の優れた文化を取り込んで、自分流にカスタマイズするのに慣れていたのに対して、中国は自らが優れていたこともあって、他国の文化を取り込むのに慣れていなかったのかもしれません。
こんなふうに外国の良いものを貪欲に取り込んできた日本ですが、単一民族であるがゆえに、日本以外の東洋の多元的民族のことは、現実的には理解できていなかったようです。それなのに明治時代以降、無理に世界と渡り合っていこうとして、それが日中戦争や世界大戦に繋がっていったのだとか。
「凝集的な日本が対外的に肥大化しなければならなかった無理なプロセスが、日清戦争以後「終戦」までの日本史です。かたや多元的な中国が一元的で均質な国民国家にならなくてはならない無理なプロセスが、二〇世紀中国史になります。双方の無理が軋轢を生み、衝突をきたし、戦火をもたらし、いまなお日中対立の禍因となっています。」
そして今後はどうなるかと言うと……
「(前略)太古まで歴史を振り返ってみても、大陸・半島と日本列島が蜜月だった時代はほとんどありません。お互いに即かず離れずの状態がもっとも安定し、たまに深入りすると痛手を負うことの繰り返しでした。
では現状はどうかといえば、けっして関係はよくありませんが、なお決定的な深入りや対立には至っていません。その意味では、歴史的な常態に回帰していると見ることもできるでしょう。いよいよそうした過去の常態、歴史を知る必要があるのです。
(中略)歴史的な経緯をわきまえて目前をみつめなおすこと、自他の客観的な理解につとめ、それを粘り強く表現説明していくことが重要ではないでしょうか。(後略)」
……確かに、そうですね。大陸・半島と日本は、今後もつかず離れずの関係が、お互いに一番平和なのかもしれません。この本にも、中国と日本は、国家として険悪な状況に見えた時代でも、実は文化や経済は緊密につながっていたという「政冷経熱」関係が続いてきたと書いてありました。
現在、超大国の地位を取り戻した中国はアメリカと競い合う関係(緊張関係)にまでなり、資本主義国家の日本は、アメリカや欧州諸国などとの関係もあって、今後、公的には中国と敵対せざるをえなくなることがあるのかもしれません。それでも、個人的には、中国や周辺諸国との友好関係も保っていきたいと思います(願っています)。
『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』。日本の歴史も、気候や世界情勢と無関係ではなく、大きな視点で俯瞰的に見つめ直すことが出来て、新鮮さを感じるとともに、とても勉強になる本でした。歴史に興味のある方はもちろん、これからの中国や世界との関係など日本の将来を考えたい方も、ぜひ読んでみてください。
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