『宇宙は数式でできている (朝日新書)』2022/1/13
須藤 靖 (著)

 かつて数学的な解にしか過ぎないと思われていたブラックホールや重力波が、一般相対論の予言通りに実在することが続々と確認されています。『宇宙は数式でできている』ことを深く考察している本で、内容は次の通りです。
第1章 本書に登場する数式の鑑賞法
第2章 世界を支配する法則とは
第3章 宇宙観の変遷とニュートン理論
第4章 宇宙は一般相対論に支配されているのか
第5章 宇宙最古の古文書に刻まれた暗号を数学で解読
第6章 ブラックホールと重力波で宇宙を見る
最終章 法則、数学、そして宇宙
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 最終章では、「世界が法則に支配されていると信じられるこれだけの理由」として、証拠の例がまとめられていました。これらについては、本書内で詳しく説明されています。
・ニュートン理論に基づいて予言された海王星が発見された
・長い間ニュートン理論では説明できなかった水星の近日点移動が、一般相対性理論によって見事に説明された
・一般相対論の予言通り、光が重力によって曲がって進むことが確認された
・一般相対論が予言する宇宙の膨張が確認された
・ビッグバン理論が予言する宇宙の光の化石・宇宙マイクロ波背景輻射が発見された
・宇宙マイクロ波背景輻射の観測データが、わずか六つのパラメータだけで決まる標準宇宙論モデルの予言とぴったり一致した
・一般相対論の基礎方程式の数学的な解である、ブラックホールが実在することが確定した
・一般相対論が予言した重力波が、100年間の観測技術の進歩によって直接検出された
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 ……なるほど。少なくとも「世界の一部」は数式で説明できることは間違いないようです(笑)。
 個人的に面白いと感じたのは、「第2章 世界を支配する法則とは」にあった「数学と物理学の違い」。次のように書いてありました。
「(前略)自然科学は、この世界が採用している前提(公理系)そのものが何なのかを探ろうとします。仮にどれほど論理的で無矛盾な理論であろうと、それが現実の実験観測結果を説明していないのであれば、その理論は「間違っている」と判定されます。これが数学と全く異なる点です。数学においては、異なる結果を与えるユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学とは、いずれも同等に正しい理論なのです。
 どちらが正しく、どちらが間違っているか、などと問うのは数学の立場からは無意味です。一方で、我々が住むこの世界はどのどちらか一つだけを採用しているはずで、結果的にはもう一つは数学としては正しくても、物理学としては間違っている理論、ということになります。
 実はこれは単なるたとえではなく、実際に物理学の本質に関わる問題です。ニュートンが発見した法則は、この世界の空間がユークリッド幾何学で記述されることを前提としていました。これに対して、非ユークリッド幾何学を前提として構築された理論が、アインシュタインの一般相対論です。一般相対論は、ニュートン理論とは矛盾する多くの観測事実を見事に説明します。これはニュートン理論が間違っていたというよりも、この世界に対する近似理論に過ぎなかったと表現するほうが適切です。」
 ……そうか物理学と数学は似たようなものだと思っていたけど、物理学は自然を解明するためにあるもので、観測事実を説明できないなら正しい物理学理論ではない……物理学が、意外にも、すごく実践的な学問だったことに、ようやく気づきました。
 また驚かされたのは、「第6章 ブラックホールと重力波で宇宙を見る」の重力波の話。2017年8月に中性子星合体による重力波が検出されたことで、次のことが示唆されたそうです。
「(前略)地上に存在する貴金属の大部分は中性子星連星合体によって生成されたのではないかという説が有力視されるようになっています。私たちの体を構成する炭素をはじめとする元素はすべて、かつて宇宙のどこかの星の中心で合成され、その後の星の進化の過程で宇宙に飛び散ったものです。これに対して、金やプラチナなどの鉄よりも重い金属がどこで生まれたのかは、よくわかっていませんでした。今回の発見によって、中性子星合体は宇宙の錬金術の現場にほかならない可能性が強く示唆されています。」
(注:今回の発見:2017年8月の中性子星合体による重力波検出にともなう、γ線からX線、紫外線、可視光、赤外線、電波などの観測)
 ……え? 金やプラチナって、地球内部で生成されたんじゃないの? と驚いてしまいましたが、地球では出来ないのだそうです。次のように書いてありました。
「(前略)実は、地球程度の小さな天体では重元素を合成することはできないのです。(中略)はるかに高温・高密度の状態にする必要があり、それは太陽よりさらに重い星の中心部でのみ可能です。このように重元素の合成にも、重力が本質的な役割を果たします。」
 ……そうなんだ。太陽よりもさらに重い星が必要なんですね。ものすごく貴重なものだったんだ……高いわけだ……。
 この他にも、アインシュタインの一般相対論や「宇宙のすべてを説明するアインシュタイン方程式」、「宇宙最古の古文書(プランク衛星によるCMB温度全天地図)」など、興味深い話が満載です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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