『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」 (光文社新書 1179)』2022/1/18
岡嶋 裕史 (著)

 話題の「メタバース」の基礎から未来の可能性までを語っている本です。
「メタバース」というと、社名まで「メタ(Meta)」に変更したフェイスブックのCMなどを思い浮かべてしまいましたが、またその全容がはっきりしていない段階(2022/1/18)で書かれているせいか、「メタバース」の事例としては、フォートナイト(三人称視点狙撃ゲーム)などのゲームが主に紹介されていました。なお本書では、「メタバースとは、「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」と定義されています。
 かつては「ドラクエ」などのRPGゲームをはじめ多数のゲームにのめりこんでいましたが、オンラインゲームが優勢になってきたころから、3D系のゲームをあまりやらなくなっているので、もちろんフォートナイトをやったこともありませんでしたが、かなり凄いことになっているようです。出来のいいシューティングゲーム、楽しいクリエイターツールが組み合わされて、世界を作ったり改変したりでき、その中で遊び、活躍でき、コンテンツ内で労働して稼いだお金でリアルの食料が買え、生活費が払える、そんな総合的な空間を提供するコンテンツなのだとか。
 さらに他のゲームも、すごく進化しているようです。
「最近のレーシングシミュレーターは、本当にリアルの運転の練習になるくらいようできている。(中略)実車に乗る手間や費用を考えたら、こっちでいいやと思わせる水準である。」
 ……こうした「メタバース」が私たちの社会に入り込んできているのです。
「現代のメタバース(たとえばフォートナイト)は、インタフェースも洗練され、何より利用者の側も、様々なアクティビティを通じて画面の読み取り方や、入力デバイスの操作リテラシを上げている。
 社会全体として、メタバース的なものを受け入れる準備が進んでいるのである。」
 ……最近はコロナ禍でZoomなどを使ったミーティングが一気に一般的になってきたので、「メタバース」は思っている以上に、急速に普及するのかもしれません。アメリカの巨大IT企業なども、こぞって参入を始めています。次のように書いてありました。
「メタバースの目的地は「リアルを超えてもう少し居心地のいい場所」にある。まだ遠い目標だが、ここ数年で各企業は「さほど長くない期間で実現可能」と踏んだのだ。だから血で血を洗う領土戦争をしている。メタバースの世界で覇権を握った者は、少なくとも四半世紀は小国家のGDP並みの売り上げを得られるだろうからだ。」
「メタバースはインターネットの代わりではないが、ウェブやSNSの代わりにはなり得る。」
「ウェブでうまくやったグーグルも、SNSで名を成したフェイスブックも、情報流通の端末をブランド化することに成功したアップルも、メタバースの商機を見逃すことはできない。」
 ……例えば、フェイスブックは、「メタバースにxRを不可欠なものと位置づけて、今までフェイスブックの弱みであったリアルと強くリンクする商品を売って自社の代替不可能性を底上げしつつ、メタバースの覇権を狙う」戦略をとっているとか。
 ただ……個人的には、「メタバース」にあまり積極的ではないようにも見えるグーグルの戦略(グーグルグラスをB to Bに投入して、ロジスティクスや医療、製造でAR活用している)の方が、現実的なように感じました。この他、アップルや、マイクロソフト、アマゾンなどの動向も紹介されています。
 そして、世界のゲームシリーズ総収益ランキングで圧倒的な存在感を示している日本企業にも、相当なチャンスがあるようです。「メタバースこそ、日本が無限大の集積を持つ勝負分野である。」と書いてありました。
 日本企業が未来のインフラになる可能性がある「メタバース」で強みを発揮する……それはとても嬉しいことだと思います。
 でも……私自身は「メタバース」にはすぐに参入する気はありません。というのも、家庭用のゲームに「すっかりはまってしまった」経験があるから(苦笑)。アイドル系美男美女になりきってコントローラを振って踊る某ダンスゲームとか、家や服を作ったり昆虫採集をしたりする某「××の森」とか、「メタバース(っぽい)ゲーム」をいったん始めたが最後、あまりの楽しさに、やれる限りの時間をつぎ込んでやってしまった……そして、自分でもその状態が怖くなったので、もっと加速して一気にやることでエンディングに持ち込むという「力技」で終わらせた(そしてソフトは処分した)という痛い経験をしているので、これらのゲームよりさらに魅力的で中毒性の匂いがする「メタバース」はすごく怖いのです(しかもこれは「終わり」がないんですよね……)。「メタバース」が本格化する前に、自分の弱点に気づくことができて本当によかった……。フェイスブックの魅力的な「メタバース」のCMを見るたびに、「絶対に、やらねーぞ……」と自戒しています(笑)。(賢く節度を持って「リアル」と折り合いをもたせればいいって? ふーん、で、どうやって? ……と、とにかく、当面はやらねーんだよ……)。
 だから、しばらくは、やらないとは思いますが、「メタバース」は社会を大きく変える可能性が高いとも感じているので、注目していきたいとも思っています。この本にも、次のように書いてありました。
「民主主義の制度や、そこで何を正義とするかは時間をかけて形成されてきたが、人々が生活の軸足をインターネットやメタバースに移すと、この制度はあまり意味をなさなくなる。法律は未だITに詳しくない。法律の知らないところで、ITのアーキテクチャが社会のしくみを作り上げ、新しい社会や新しい正義を、一部の人の意見だけで実装していく。」
「正義はフィルターバブルで加速する。SNSを使っていなくても、である。マジョリティは沈黙し、周囲には似た意見の者が集まる。世界中を飛び回って多様な社会を見ていると自認する人でもあまり関係ない。どこの国にも同属性の人はいるし、集まる。」
「今わたしたちがおかれている環境は、このようなものだ。よほど強い主張がなければ、よほど確固たる意思がなければ、参入するのをためらう空間である。だから多くの人は降りてしまうのである。バランスのよい意見を持つ人ほど、嫌気が差してしまうのである。SNSの奥庭に引きこもり、フィルターバブルの繭に包まれ、快適に過ごすほうがよほどよい。生産的ではないかもしれないが、自分も傷つかないし、他人も傷つけない。」
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 ……当面は「メタバース」の推移を見守っていきたいと思いますが、実はひそかに期待もしています。なんといっても「メタバース」は「新しい居心地のよい世界」なので、「現実世界」をリセットして入り込むことができるからです。今はまだ「現実世界」を楽しむ元気がありますが、もっと老化して体が動かなくなり、誰かに介護されながら生活することになったら、「メタバース」に「移住」して、「幻想世界」での生活を始めたいなとも考えているのです(もちろん若い美男美女になって)。その時までに、「メタバース」が本当に快適で安全な場所になるよう、しっかり見守っていきたいと思います(笑)。
「メタバース」の基礎から未来まで語ってくれる本で、とても参考になりました。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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