『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』2021/12/25
リズワン・バーク (著), 竹内薫 (監修), 二木夢子 (翻訳)

 私たちが認識する現実は、映画『マトリックス』の世界と同じように、実際には巨大なシミュレーションの一部なのかもしれないという可能性について、深い洞察をもとに、かなり説得力のある考察をしている本です。
『われわれは仮想世界を生きている』というタイトルを見て、この本は、「メタバースのような仮想空間」に関するものだと、すっかり勘違いしていたので、「パートI マトリックスの作り方」のビデオゲームとコンピュータサイエンスの進化に関する部分までは、ビデオゲームって、確かにこんな進化をしてきたよなーと思いながら普通に読んでいただけだったのですが……「パートII シミュレーションは私たちの世界をいかに説明するか」に入ったとたんの超展開っぷりに、すっかり驚かされてしまいました。
 なんとパートIのビデオゲームの話は、「シミュレーション仮説」への前振りに過ぎなかったのです。と言うか……ビデオゲームの世界と量子論との多くの共通点が「私たちが実際にシミュレーションの中に住んでいるという証拠」になるかもしれない、というのが、この本のメインテーマだったのでした……次のように書いてありました。
「自分たちが「現実」と呼んでいるのは、実際には超高度なビデオゲームである――この考え方を、一般に「シミュレーション仮説」という。」
「量子物理学の多くの実験は、量子不確定性の特性を示している。すなわち粒子は、観測されるまで、かつ観測されない限り、可能なあらゆる値をとることができる。この観測者に意識が必要かどうかは意見が分かれるが、ホイーラーの遅延選択実験のさまざまなバージョンを見る限り量子不確定性が作用するには、意識が不可欠であることを示しているように思われる。このことは、この宇宙がプレイヤーまたは観測者にとってのシミュレーションであるというエビデンスをさらに補強するように思える。というのも、観測者と無関係に存在する、決定論的かつ機械的な、純粋に物理学的な宇宙では、このようにはならないはずだからだ。」
 ……この「シミュレーション仮説」は、現実のさまざまな状況とも整合性がある上に、未解明の謎までも、解明してくれるのです。
 たとえば自然界にあるフラクタル図形は「自然界や生物界がアルゴリズムに基づいている可能性を明らかにする」ものだとか、不可能だと言われてきた量子コンピュータが実現したこととか、パラレルワールド、量子もつれ、多くの宗教が「世界は一種の夢である」と言っていること、果てはUFOまでが、「シミュレーション仮説」では、かなり合理的な説明がつけられそうなようです(読んでいて、頭がくらくらしそうになりましたが……)。次のように書いてありました。
「(前略)コンピュータサイエンスの進化、ビデオゲームという形のシミュレーションがどのように構築されているかという理解、量子物理学の中心的な謎、古代の東洋哲学からのメッセージ、西洋宗教による説明、そして未解明の超常現象、これらすべてが、プラトンの洞窟の比喩に登場する囚人のように、私たちがシミュレーションの中に住んでいることを示唆している。」
「(前略)これまで物理的だと考えていたことは、すべて情報と計算の問題だったのだ。
 これらすべてを駆動する、総合的なコンピュータプログラムとは、どのようなものだろうか。私はそれを「グレート・シミュレーション」と呼びたい。」
「ほとんどのビデオゲームは、計算リソースの最適化を必要とする。そして、プレイヤーの視点からレンダリングする必要のあるものだけをレンダリングする。これは、物理的世界は誰かが観測したときにのみ存在しているのかもしれない、という最新の考え方である「量子不確定性」に直接関連する。だとすれば、量子不確定性は一種の最適化手法だということになる。(中略)グレート・シミュレーションにおける「ハードウェア」とは私たちの意識であり、共有された現実は存在しているが、必要に応じて部分的に表示されているだけなのかもしれない。」(注:レンダリング=コンピュータプログラムを用い、もととなる数値データを計算し表示を行うこと)
 ……正直に言って、確かに納得できる部分はあるものの、そもそもこの「シミュレーション仮説」が成り立っていると、どうやって証明できるのか? そして、たとえ証明されたとしても、それが、どう私たちに役にたつのか? という疑問が心にもやもや漂って、うーん、やっぱり、この仮説は、当分は眉唾物としておこうかな……(苦笑)。本書の中でも、(自分が)「シミュレーションの中にいるかどうかを知りようがないとすれば、いずれにしろ我々には関係ないのだから、気にするだけ無駄であって、そのまま「ゲームのプレイ」を続行すればいい」と考える人もいると書いてありましたが、私自身も、まさしくその立場に立つ人間です。
 とは言っても、とても面白い仮説であることは確かで、すごく新鮮な視点を与えてもらえました。そういう意味で、読む価値はあったと思います。
 新しい視野を持たせてくれる『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』。トンデモ科学本のような気もしますが(笑)、説得力もかなりあるように感じます。興味がある方は、ぜひ読んでみてください☆
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