『脳の大統一理論: 自由エネルギー原理とはなにか (岩波科学ライブラリー 299)』2020/12/24
乾 敏郎 (著), 阪口 豊 (著)
知覚、認知、運動、思考、意識などを統一的に説明する理論として、神経科学者フリストンが提唱している「自由エネルギー原理」の理論を解説してくれる入門書です。
「自由エネルギーを最小化するように推論を行うこと、これが自由エネルギー原理である。」そうで、異なるスケールでの自由エネルギーの最小化は、次のようになるそうです。
1)知覚と行為:感覚データの生成モデルに基づき予測誤差(または自由エネルギー)を抑制するための神経および神経筋活動の最適化
2)学習と注意:感覚中枢神経系における予測誤差の精度と因果関係を符号化するための数秒から数時間にわたるシナプス結合の最適化
3)神経発達:後成的に指定されるニューロン結合の活動依存的な刈り込みと維持を通してモデルの最適化を行う
4)進化:長期間の平均自由エネルギー(自由適応度)とそれらの生成モデルの選択圧による同種の個体の最適化
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私たちの脳は、知覚、認知、運動、思考、意識をする時には「能動的推論」を行っていて、その予測誤差を最小化するように動いているようです。
例えば運動の場合は、次のような感じ。
「人間が身体を動かすとき、大脳皮質の運動野から脊髄のα運動ニューロンを経由して脳に信号が送られ、筋が収縮することによって運動が実現される。自由エネルギー原理では、α運動ニューロンに送られる信号は運動実行後にゴール状態で得られるはずの自己受容感覚(筋感覚)の予測信号と考える。そして、α運動ニューロンは、この予測信号と筋紡錘から送られてくる感覚信号を比較して予測誤差信号を生み出し、それを筋に送ることで予測誤差が小さくなるように筋を収縮させる。このように、フリストンの理論では、知覚も運動も予測誤差最小化という枠組みで捉えることができる。」
「予測誤差最小化という観点に立てば、知覚も運動もまったく同一の定式化ができるのである。」
……なるほど。
脳や人工知能に関することを学んでいて、どうしても不思議だったのは、小さな脳のニューロンの生化学的状態の違いで、なぜ私たちは「記憶」するだけでなく、「予測」したり「仮説」を立てたり出来るのかということ。この「自由エネルギー原理」は、それについて説明をしている『脳の大統一理論』なんですね!
「予測誤差最小化」という以外に簡単な仕組みで、脳のいろんな機能を説明できることに驚きました。これの理論が実際に「脳の現実」をどれくらい忠実に反映しているのかは分かりませんでしたが、少なくとも「脳の大統一理論」への端緒にはなりそうに感じます。今後も注目していきたいと思いました。
脳研究の一つ、「自由エネルギー原理」に関する入門書です。脳に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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