『脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき (ブルーバックス)』2020/12/17
毛内 拡 (著)

 ニューロンだけでは分からなかった「人間らしさ」を生み出す、知られざる脳の正体(ニューロン以外の要素)に関する研究の最前線を教えてくれる本で、内容は次の通りです。
プロローグ 「生きている」とはどういうことか
第1章 情報伝達の基本、ニューロンのはたらき
――コンピュータのように速くて精密なメカニズム
第2章 「見えない脳のはたらき」を”視る”方法
――脳研究はどのように発展してきたか
第3章 脳の「すきま」が気分を決める?
――細胞外スペースは脳の”モード”の調整役
第4章 脳の中を流れる「水」が掃除をしている?
――脳脊髄液と認知症の意外な関係
第5章 脳はシナプス以外でも“会話”している?
――ワイヤレスな情報伝達「細胞外電場」
第6章 頭が良いとはどういうことか?
――「知性」の進化の鍵を握るアストロサイト
エピローグ 「こころのはたらき」を解き明かす鍵
――変化し続ける脳内環境が生み出すもの
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 このうち、第1章は脳の構造やニューロンの働きについて、第2章は脳科学の歴史など、脳研究の基本的解説なので、脳についてあまり知らない方は、ここで概要を学ぶことができます。
 そして第3章以降は、「ニューロン以外の要素」に関する最新の知見紹介で、これが本書のメインテーマです。
 さて、脳の働きは「ニューロン」が担っていると考えられてきましたが、この常識が覆されようとしているそうです。脳の中には、知られざる「すきま」があり、そこを舞台に、様々な脳活動が繰り広げられているのです。細胞外スペースに流れる脳脊髄液、その中で拡散する神経修飾物質や細胞外電場、そして、脳細胞の半分を占めるグリア細胞……私たちの心や知性の源は、ここにあるかもしれないと考えられてきているのだとか。
 例えば、次のような情報を知ることができました。
・脳を浸している脳脊髄液は、常に流れて入れ替わることで脳の環境を一定に保っている
・脳は睡眠中に、脳脊髄液の流れを利用して脳の中を洗浄しているのかもしれない
・脳脊髄液の流れが異常になることと、アルツハイマー病のような脳の病気との関連が注目されている。
・脳脊髄液の流れを利用して、脳梗塞後の間質液のイオンバランスを元に戻すための治療法が提案されている。
・脳は、細胞外スペースの体積を調節することで、より効率的に脳をはたらかせる工夫をしているのかもしれない
・アストロサイト(グリア細胞の一種)は、シナプス伝達の効率を変化させることで脳の情報処理に関与しているかもしれない。
・アストロサイトは、ノルアドレナリンの作用を通じて、心理機能や精神機能、記憶の定着などにも関与しているかもしれない
 ……などなど。この本の「エピローグ」には次のような記述がありました。
「「脳のすきま」とも言える細胞外スペースは、脳の状態によって伸び縮みし、その中を拡散する神経修飾物質によって気分などの「モード調節」がなされていること、それがニューロンの活動をも調整しているかもしれないということ、脳脊髄液の流れは脳が正常にはららくための掃除の役割も担っていること、アストロサイトが知性やひらめきに関わっている可能性など、さまざまなことが見えてきました。」
 この本で紹介されているものは脳の最新の研究なので、まだ「確定」されたものは少ないようでしたが、王道(ニューロン)以外の脳研究の最新情報を知ることが出来て、とても興味深かったです。
 ニューロン以外の要素の研究が進むことで、脳研究がますます進み、認知症などの脳の病気を予防・回復させることが出来るようになることを願っています。
 脳に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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