『こころと身体の心理学 (岩波ジュニア新書)』2020/9/19
山口 真美 (著)
金縛り、絶対音感、摂食障害、全盲者がつくりあげる空間世界……脳科学や様々な事例をもとに、山口さんが自身の病とも向き合って解説してくれる「今を生きるための身体論」です(なお、これは「岩波ジュニア新書」から出ている青少年向けの本です)。
「序章 アンバランスな身体」には、次のように書いてありました。
「(前略)思春期には、様々な身体の悩みが生じます。
身体の急速な成長に心が追いつかないことがその原因の一つで、心と身体の不一致に悩むことが多い時期なのです。大人になるためには、自分の身体に心をあわせていかなければなりません。」
この本は、思春期におきやすい身体と心のアンバランス問題を中心に、『こころと身体の心理学』を教えてくれます。それも、ご自身が自ら体験した問題も含めて教えてくれるので、とても実感があります。
例えば「金縛り」。私自身にはほとんど体験がないのですが、山口さんは30歳くらいまで頻繁に金縛りにあっていたそうです。中高生の頃は一番ひどかったのだとか。
この金縛りについて、今では次のことが分かってきたようです。
「(前略)金縛りは科学的にも解明されています。眠っているときの脳波を計測した研究によって、睡眠の際におきる生理的な現象であることがわかったのです。金縛りは、寝入りばなにいきなり深い睡眠に入るときにおきるというのです。
睡眠は、ふつうは徐々に深い睡眠へと移っていきます。ところが金縛りがおきるときには、いきなり深い睡眠に入ってしまいます。身体は寝ている状態なのに頭はさめている。そのため、身体が脳の言うことをきかない状態になってしまうのです。」
金縛りは「睡眠」と関係があったんですね。
この他にも、体外離脱や摂食障害、絶対音感や共感覚など、興味深い話をいろいろ知ることができました。
目の見える人たちに目かくしをしたまま5日間生活してもらい、点字の訓練を受けさせたところ、たった5日間で、指先への触覚的な刺激で視覚に関する脳の活動がみられるようになるなど、脳は、想像以上に柔軟な発達可能性(可塑性)を持っているそうです。
また、思春期の脳は、大人の脳とは違っているようです。思春期には、大人より情動が暴走しやすいのですが、それには脳の発達、特に偏桃体が関わっているようです。ちょっと長いですが、その部分の一部を以下に紹介させていただきます。
「偏桃体は不快な情動の処理にかかわります。偏桃体は、発達上では極めて重要な働きをしています。たとえば人見知り、子どもが知らない大人をきちんと恐れ、むやみについていかないことにも関わっています。(中略)
偏桃体は大人になるまで成長し、見た目が大人とほぼ同じになる13歳~20歳くらいまでの青年期でも、大人と違いがあります。平均14歳の青年期の学生と平均30代の成人を対象に不快な状況を学習させる実験で、その差が示されています。恐怖の表情でさけぶ女性の顔とふつうの表情をした女性の顔をそれぞれ学習させると、成人は女性の様子が危険か安全かをしっかりと区別できたのに対し、一方の青年期の人たちはこうした区別が成人ほどうまくできず、女性の写真を見ているときに情動をつかさどる偏桃体の過敏な活動がみられたのです。
青年期の偏桃体の活動は、不快な情動が強く働いていることを示しています。この結果は、成人は冷静に不快な状況を判断するのに対し、青年では情動が勝ってうまく状況を認識できなくなる可能性があることを示しているのです。(中略)
つまり、脳の働きによるこうした性質から、青年は大人と比べ、楽しみも苦しみも、頭で冷静に認識するよりも感情的に反応しやすいということ、そのため、ときには状況が耐え難く感じたり、ときには楽しみをより強く感じることにもつながるのかもしれないのです。青年期の問題行動は個人に原因があるのではなくて、発達上の原因があることを理解し、情動におぼれやすい性質があることを意識して注意することも大切ではないかと思います。」
中高生ぐらいになると、見た目(身体)は大人とあまり変わらないように見えますが、脳や心には未発達な部分も多いということなのでしょう。
『こころと身体の心理学』を脳科学的に、さまざまな事例も含めて解説してくれる本でした。思春期の方はもちろん、思春期のお子さんがいる方も、ぜひ読んでみてください。
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>