『時間の矢』1987/5
リチャード・モリス (著), 荒井 喬 (翻訳)

「時間とは何か」という問題がいかに不可解なものか、という話から、時間の概念の歴史的変遷、物理科学における時間の問題の諸側面を解説してくれる本です。
 大学の授業で「時間」の不可解さに気づかされるまで、私は「時間」というのは、ごく当たり前に1時間が60分で1日が24時間と決まっている「定規で表せるようなもの」だとばかり思っていましたが、実は、「時間」の本当の正体はいまだに誰にも分かっていないそうです。時間は季節ごとに巡ってくるものなのか、不可逆に消え失せていくものなのか、無限に分割できるものなのか、そもそも時間の最初と最後はどんな状態なのか……「時間」とは、考えれば考えるほど、どんどん分からなくなっていく摩訶不思議なものなのでした。
 この本は、大学で授業を受けてから、がぜん「時間」に興味を抱くようになった私が、関連の書籍を読み始めた初期の頃に読んだ本ですが、今回、再読してみて、解説が分かりやすいと感じたので、1987年発行の古い本ですが、紹介させていただきます。
 本書の1、2章では、古代世界を支配していた循環的時間と、ユダヤ教・キリスト教の直線的時間を比較して解説しています。
 3、4章では、「速度は時間の関数である」というガリレオの革命的発見から始まった現代的力学、さらに微積分・決定論などの解説、そして5章では、進化論的時間の観念が示されます。
 本書の後半では、アインシュタインの一般相対性理論から、エントロピーの概念、時間の宇宙論、時間の始まり・終わりが語られます。8章では、5つの時間の矢(時間の方向を区別しうる方法)として、「熱力学的な時間の矢」、「宇宙の膨張」、「中性K中間子の崩壊」、「電磁気学的な時間の矢」、「心理的な時間の矢」があげられていました。
 後半になるほど物理学みが増していくので、正直に言ってよく分からなくなっていきましたが(汗)、「時間」について総合的に解説・考察してくれているので、全体としては、とても参考になりました。時間や宇宙に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
   *    *    *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>