『時間と宇宙のすべて』2012/4/20
アダム・フランク (著), Adam Frank (著), 水谷 淳 (翻訳)
時間の概念と宇宙論の進展を、社会や歴史とのかかわりから総合的に展望している本で、内容は次の通りです。
はしがき 始まりと終わり
第1章 語る空、働く石、生きる野―有史以前から農耕社会へ
第2章 都市、周期、周転円―都市の形成と理論に基づいた宇宙観
第3章 時計、鐘楼、神の球体―中世の修道院からルネサンスの宇宙へ
第4章 宇宙の機械、照らされた夜、工場の時計―ニュートンの宇宙から熱力学と産業革命へ
第5章 電信・電気式時計、ブロック宇宙―時間帯からアインシュタインの宇宙までの同時性の原理
第6章 膨張する宇宙、ラジオの時間、洗濯機の時間―二度の世界大戦のあいだのスピード、宇宙論、文化
第7章 ビッグバン、テルスター、新たなハルマゲドン―テレビの宇宙時代における核爆発の勝利
第8章 インフレーション、携帯電話、アウトルックの宇宙―情報革命とビッグバンの苦境
第9章 車輪のなかの車輪‐サイクリック宇宙と量子重力の挑戦―繰り返される時間による永遠の時間
第10章 絶えず変化しつづける永遠‐多宇宙の期待と危険―永久インフレーション、時間の矢、人間原理
第11章 幽霊を手放す‐始まりの終わりと時間の終わり―宇宙論の過激な代替理論の三幕
第12章 もたれ合う藁の野原のなかで―人間的時間と宇宙的時間の始まりの終わり
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人間が時間をどのように感じるか、そして時間をどのような単位に分割するかは、その時代ごとの人間の生活のしかたに左右されるのだそうです。
例えば現在の私たちの日常は、スマホや電波時計に表示されるデジタルな時間でせわしなく進んでいきますが、旧石器時代の人々はそうではありませんでした。人々は狩猟採集者として、動物の群れを追い、季節ごとに食べられる植物が熟するのを観察し、太陽や月、星、そして光と暖かさの移ろう季節で日常の時間を感じていたのです。
しだいに農耕が発展していくと、人々は季節に結びついた周期的な時間を、神話に表現される宇宙観に持ち込んでいきました。さらに文化が進んでいくと文字や計測システムが生まれ、天体観測や暦づくりが行われ、時計が作られ……人々の時間感覚は変わっていくのです。
そしてニュートンが時間、空間、運動の概念を作りかえました。彼は空間と時間を独立した現実の存在にしたのです。ニュートンの力学がきっかけになった産業革命は、効率的な生産で人々の時間のありかたを変えていきました。
……このあたりから、本書の内容はどんどん数学・物理学・哲学寄りの内容になっていきます(汗)。時間と熱力学第二法則の関係、鉄道網の整備と標準時の設定、電信ケーブルのネットワーク、そしてアインシュタインの相対論、さらにはビッグバンなどのさまざまな宇宙論へと、人間と時間の関係はどんどん複雑化・高度化していくのでした。
この本は、技術の進歩・社会の変化と、時間の考え方や宇宙論の発展が、お互いに絡み合いながら影響をおよぼしあってきた歴史的経緯を、じっくり教えてくれました。正直に言って、後半のさまざまな宇宙論の話にはよく理解できない部分もありましたが、人間社会(文化)と時間(感覚)の関係について、じっくり総復習させてもらったような気がします。「時間」には興味津々な私ですが、時間って……考えれば考えるほど分からなくなる不思議な存在ですね……。
400ページ以上もあって読むのは大変でしたが、とても参考になりました。時間や宇宙論に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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