『不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか?』2019/1/17
須藤 靖 (著)

 現代物理学は、この宇宙が不自然なほどに絶妙なバランスの上に成り立っていることを明らかにしました。我々の宇宙は唯一の存在なのか、無数の宇宙の中の1つに過ぎないのか?……最新物理学の観測事実に基づいた「マルチバース」の理論と「人間原理」を解説してくれる本です。(なお、マルチバースとは、宇宙が1つではなく多数である可能性を考えて、それら数多くのユニバース(宇宙)の集合を表す単語です。)
 この本では宇宙に関するいろいろな最新理論や考察を読むことができたのですが、個人的に意外だったのが、「ビッグバンは点の爆発で始まったのではない」という話。
「ビッグバンは「宇宙が空間のある一点の爆発で始まった」ことは意味しません。CMB(※)はある瞬間にある方向からやってくるのではなく、全天のあらゆる方向から等方的に、しかも常に届き続けます。この事実は、ビッグバンの情報はその時点で我々を囲む地平線球の境界面から常にやってくることを意味します。したがって、「ビッグバンは点ではなく、(ほぼ無限の体積をもつ)空間のいたるところで同時に起こった」と解釈せざるを得ないことになります。」
※注:CMB(宇宙マイクロは背景輻射)=高温高密度のビッグバン状態にあった時期の残光といわれている。
 ……ビッグバンは一点で起こったのではなく、「いたるところで同時に」起こったんですか……「一点から」爆発的に始まったというのもイメージしにくいと思っていましたが、「いたるところで同時に」っていうのは、もっとイメージしにくいような……(汗)。
 また、とても興味深かったのは、「第4章 不自然な我々の宇宙と微調整」で、不自然に感じられる数字(重力と電磁気力の強さが40桁近くも違っている)のを、自然な数字(同じ程度の強さ)に変えたら、世界はどうなるのかという思考実験。重力と電磁気力の強さがほぼ同程度の物理法則に支配されている宇宙では、次のようなことが起こるのだとか。
「原子が10個程度集まるだけで、重力によって引き寄せられ、核融合反応を起こしえるほどの高密度が実現されるかもしれません。とすれば、原子を構成要素とする物質は安定ではいられません。原子同士がばらばらに離れてほとんど相互作用しない気体のような低密度の状態のみが、安定だと考えられます。そのような宇宙では、天体はおろか、ごく簡単な分子構造すら安定ではないでしょう。したがって、当然、生物のような複雑な構造は形成できそうにありません。」
 その他にも、「弱い力がもう少し強ければ、中性子がほとんど陽子になってしまい安定な原子核ができない」とか、「電磁気力が弱い宇宙では、分子の安定性が失われる」とか、いろいろな状況になることを知ることが出来ました。まさに「現在の宇宙の物理法則や物理定数のどれかを少し変更しただけで、たちまち世界の安定性が崩れてしまう。」んですね!
 そして最後の「終章 マルチバースを考える意味」では、この本の主題ともいえる「問題」が提示されます。
「この宇宙を支配している物理法則や物理定数は不自然である。特に、物理定数の値は、極めてありえないような絶妙な組み合わせとなっていて、それが生命、さらには知的生命の存在を可能としているように思える。これから何かわかることはあるか。」
 この問題への「模範解答例」は次の通りだそうです。
「物理法則を特徴づける物理定数の値がある特定の極めて狭い範囲に限られる理由はない。とすれば、それらの組み合わせが、生命の存在を可能とするような範囲におさまる確率は極めて低い。にもかかわらず我々が住むこの宇宙はまさにその例となっている。したがって、我々の宇宙以外に無数の異なる宇宙が存在することが結論される。」
 ……この「模範解答」の最後の「したがって、」以降の文章に「飛躍」が感じられるのは私だけでしょうか?
 正直に言って、この本の主題のマルチバースの説明はよく理解できませんでしたが(汗)、現実主義者の私としては、そもそもこの宇宙は「不自然」ではなく、これこそを、むしろ「自然」と捉えていいのではないか? と考えてしまいます。そしてこの宇宙は、単純に「偶然そうなった」もので、私たち生物は、その環境に合わせて進化してきたのだと思うのですが……それは「不自然」なことでしょうか?
 もっとも宇宙自体は、一つでも多数でも、どちらでも構わないと思います。私自身が属しているのは、おそらく一つだと思いますが、無関係な場所に他のものが多数あっても、別に生活に支障があるわけではありませんから(笑)。
 ……ということで、残念ながら「マルチバース」のことをよく理解できたわけではありませんでしたが、この本を読んだ最大の収穫は、「マルチバース」のような壮大な仮想空間を設定すると、いろんな可能性(私たちの宇宙とはまったく違う物理設定など)を、具体的に考えやすくなると感じたことでした。そういう意味で、とてもいい概念だと思います。
 内容的には、かなり哲学的だったと思うので、宇宙が好きな方だけでなく、哲学的思考が好きな方も一度読んでみてください。きっと何かとても参考になることを見つけられると思います。
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