『へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星』2016/6/21
鳴沢 真也 (著)

 フィギュアスケートの選手みたいにイナバウアーしている星(プレオネ)、恒星のくせに彗星みたいな長い尾を引きずっている星(ミラ)、墨を吐いて自分の姿をくらますタコみたいな星(かんむり座R星)……そんな10個のへんな星たちの生態(?)に驚き呆れているうちに、星の物理も楽しく学べてしまうという素晴らしい本です☆
 夜空に瞬く恒星は、どれも小さな点にしか見えませんが、その中には奇想天外なふるまいをするものがいるようです。はるか遠くの彼らの想像を絶する「生きざま」が、観測技術と天体物理学の進歩によって少しずつ明らかになってきているのだとか。
 この本では、そんな不思議な星たちの姿を知る(見る)ことが出来るとともに、彼らがそんな「へんな星」だと分かった経緯についても知ることができます。そして、その経緯を知るための前提知識として、天文学の基礎知識を解説してくれるのですが、この解説がとても分かりやすい☆ だからこの本は、まず「へんな星」の生態に興味を惹かれ、その謎ときの経緯を興味津々で読んでいるうちに、天文学の知識も学べるという……まさに楽しくて勉強にもなる素晴らしい天文の本なのです☆
 例えば、「第1章 プレオネ―イナバウアーする二重円盤」では、分光観察(星の光をスペクトルに分けて詳細に調査する)について、次のように説明されていました。
「星のスペクトルは一見すると、連続的に色が変わっていきます。これは連続スペクトルといって、虹もそのひとつです。(中略)ところがよく観察してみると、連続スペクトルの中には無数の黒い線が存在していることがわかります。これを吸収線といいます。星は不透明なガスのかたまりといいましたが、外側ほど透明度が増しています。つまり外層は見た目がスカスカなガスで包まれていて、ここを大気といっています。星の光の源は中心部にあるわけですが、光は内部から外へ向かって移動していきます。星の一番外側に到達した光は、そこから宇宙空間へと出ていくわけですが、大気を通過するときに、一部がそこにある原子に吸収されます。スペクトル上では、その波長に相当する光量が減ってしまうので、そこだけ強度が下がり、見かけ上は黒い線のようになります。こうして吸収線ができます。(中略)このようにして、星の連続スペクトル中にはたくさんの吸収線が見られるのですが、特殊なケースとして、吸収線と同じ波長の場所が輝いている場合があります。このような線は、その名も輝線といい、輝線が出る星は輝線星とよばれます。」
 また「第2章 プシビルスキ星―宇宙人が核兵器を捨てたのか?」には、次のような解説が。
「星のスペクトルには吸収線が存在します。どの元素がどの波長に吸収線を持つのか、地上の実験室で詳細に調べられていますから、吸収線の波長がわかれば、その星に何があるのか、たとえば金があるとか、銀があるとか、ウランがあるとかが、わかるのです。たとえていうなら、吸収線は星のバーコードです。何億光年、何十億光年と離れた銀河でさえ、そこにいかなくても何が存在するのかがわかります。元素の種類だけではありません。元素が多いほど吸収線は強くなりますので、量までわかるのです。こうして、星が何でできているのかが解明されると、わかったことがありました。星は水素のかたまりだったのです。」
「星に磁場があることはどうやってわかるのでしょうか。じつは、磁場中の原子が起源となる吸収線では、複数に分離するという現象が起こります。これは発見者の名前からゼーマン効果とよばれています。磁場が強いと分離の幅も大きくなるので、その星の磁場の強さがわかるというわけです。」
 ……超遠い星が何で出来ているのか、確信ありげに書いてある星の図鑑などを読んだとき、「どうして、こんなに遠い星の組成が分かるんだろう?」とちょっと不審に感じていたのですが(汗)、遠くからでも観察できる「スペクトル」を分析することで、その星について驚くほどいろんなことが分かるんですね!
 面白い「へんな星」たちの話を興味津々で読んでいるうちに、最新の天文の知識もちょっぴり身についてしまうという、とても素晴らしい本でした。天文に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。だんぜん、お勧めです☆
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