『続・失敗百選 – リコールと事故を防ぐ60のポイント』2010/12/2
中尾 政之 (著)
ソフトウェアや家電製品など、身近な分野における失敗を集録し、その原因と共通点を探っている本で、大きな反響を呼んだ『失敗百選』の続編です。
実際の失敗事例が多数(60例)紹介されているので、これらの失敗事例から、自分の仕事にも生かせるヒントを得られるのではないかと思います。
失敗は次のように大別できるそうです。
1)要求機能未達
1-1)技術的
・経年劣化(疲労、腐食、緩み、高分子材料劣化など)
・基本設計未熟
1-2)組織的
・うっかりミス(軽率作業、火災避難、共感不良、無思考状態など)
・想定ミス
2)要求機能干渉
2-1)技術的
・設計ミス((副次的な要求機能への干渉)冷却、塵埃、過負荷、誤動作など)
2-2)組織的
・意思疎通不全(コミュニケーション不足、組織間齟齬など)
3)要求機能複雑
2-1)技術的
・システム暴走(化学、バイオ、システムダウンなど)
2-2)組織的
・構造疲労(要件定義不足、不作為、違法行為、テロなど))
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これらのうち、特に心がえぐられたのは、「2)要求機能干渉」の例。例えば「コンパクト構造にするために配管をL状、Z上に曲げたことで、経年変化でクラックや詰まりが発生」してしまった事例や、部品や接着剤などが劣化した事例などは、「設計段階で、どこまで経年変化を予想できるか」について深く考えさせられました。
その対策としては、「「一人二役」は設計では好ましくない。要求機能の条件が変わったときに調整できなくなるからである(→設計は可能な限りシンプルに。配管配線は直線に)」、「できるだけ要求機能を整理してから、設計解の選定に取りかかるべきである」というようなことを、常に心掛けるべきなのでしょう。
また「歴史的倫理問題」として、次の4つの事例を知ることとも出来ました。
1)黄教授によるES細胞の論文捏造(2005)
2)ミリカンによる油滴実験のデータトリミング疑惑(1913)
3)ワトソンがDNAの二重らせんのX線写真51番を盗み見(1953)
4)ケプラーがティコ・ブラーエを殺害? データを窃盗(1602)
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このうち「4)ケプラー」の事例は知らなかったのですが、なんとティコ・ブラーエは毒殺されたそうです。1991年にブラーエの毛髪を分析したところ、死の13時間前に飲んだ水銀が検出されたのだとか。この毒殺犯人をケプラーと断定することは出来なかったようですが、ブラーエは病死ではなく殺害されたことは明らかなのだそうです。……もしもケプラーが殺害した疑惑が濃厚ならば、「ケプラーの法則」は、名前を変えるべきではないかと思いました。殺害犯が偉人扱いされるのは、教育上良くないことではないでしょうか。
また「失敗」を隠蔽して終わらせることは、絶対にしてはならないとも感じました。「失敗」からは、とても多くのことが学べるだけでなく、次の失敗を防止することにも役立ちます。「原因分析できれば、演繹的に事前予防できる。真摯に事前予防すれば、次の失敗は再発防止できる」のです。
とは言っても、「分かっちゃいるけど、後回し」にしていることは意外に多いとも感じます。例えば私自身も、この本を読みながら思い出してしまったことがありました。それは、「ビルの窓の赤い印」のこと。
ある時、急にトラブルが発生してしまったので、近くのホワイトボードのある休憩スペースで、会社の同僚たちと緊急の対策会議をしていた時、安全管理課(?)の担当者らしき人が通りかかって、そのホワイトボードを即刻撤去するように言われたことがあったのです。なんと、そのホワイトボードの裏には大きな窓があり、そこに「赤い三角マーク」がついていたのでした。それは、「消防隊進入口(非常用進入口)」の印で、「火災などの緊急時に、消火や人を救出する場合は、このマークの窓を破ってください」という意味なのだとか!
仕方がないのでホワイトボードを窓に垂直になる方向に移動して、不自由な位置のまま会議を続行しましたが……安全担当課(?)担当者の方がその場を去った後、すぐに元の位置に戻して会議結果をまとめ、トラブルを早急に解決すべく各自が仕事に戻っていった……という出来事があったのです。
……その時の自分の安全管理への危機意識の低さを痛感するとともに、「赤い三角マーク」の運用の仕方にも問題があるのでは? と考えさせられました。なぜなら、その場にいた我々一般社員のほとんどが、「赤い三角マーク」の意味を知らなかったからです(しかも緊急の仕事があったため、安全管理の仕事(「赤い三角マーク」のためのホワイトボード撤去)は後回しになり、その後、忘れ去られました……汗)。
この件に関して、この本の教え「失敗を分析して原因がわかったら、精神ではなく、モノで対策しよう」を活用するなら、「赤い三角マーク」の意味を社員全員に周知徹底させるだけでなく、そのマークのある窓の下の床に、必要なスペース分、白いテープを使って「白い斜線地帯(ゼブラゾーン)」を作るなどして、「何も置くな」と明示すべきではないかと思います。
「赤い三角マーク」の前が「休憩スペース」になっていたことを思うと、おそらくフロアのレイアウト(座席配置)設計者は、その場所を「いざという時の非常用進入口」にしつつ、スペースの有効活用を図ったのではないかと推察されますが、いつの間にかその「休憩スペース」に「打ち合わせのためのホワイドボード」が持ち込まれてしまい、結果的には、「赤い三角マーク」付きの窓を「より効果的に塞ぐ」ことになってしまいました。……まさに「安全管理は緊急ではないために、後回しになりがち」の悪い事例ですね(汗)。そして「安全管理」を怠っていると、万が一の時、そのツケはものすごく高額(火災の消火遅れ、死者発生など)になってしまうのですよね……。
「自由を許すと活性化するが、手を広げすぎて失敗する。一方で、規律を課すと失敗しないが、活力を失う」
現実問題として考えると、「安全管理」は本当にバランスが難しいですが、時々、この『続・失敗百選』のような書籍を読んで、安全管理をしやすい環境を整えることが大事だと思わされました。防げる失敗は、事前に手を打っておきたいですよね。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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