『トランスヒューマニズム: 人間強化の欲望から不死の夢まで』2018/11/30
Mark O’Connell (原著), マーク オコネル (著), 松浦 俊輔 (翻訳)

 シリコンバレーを席巻する「超人化」の思想。人体冷凍保存、サイボーグ化、脳とAIの融合……最先端テクノロジーで人間の限界を突破しようと目論む「超人間主義」ムーブメントの実態に迫るルポルタージュです。
「トランスヒューマニズム」とは、「われわれは技術を用いて人類の未来の進化を制御することができるし、そうすべきだ」という確信に依拠する運動だそうです。死因としての老化の根絶、技術を使った心身増強、マシンと融合し自己を高い理想像に改造することなどを目標にしているのだとか。
 この本は、著者のオコネルさんが、トランスヒューマニズムの分野で活動する主要な人々の活動の場を訪れ、直接に話を聞き、その考えを拾い上げ検討する、という取材をまとめたルポルタージュで、原題をそのまま訳すと「マシンになるために――死という控えめな問題を解こうとする、サイボーグ、ユートピア論者、ハッカー、未来論者の許への旅」になるそうです。
「トランスヒューマニズム」……目標自体は素晴らしいけど、なんかSFっぽ過ぎて怪しそうな気もします(汗)。著者のオコネルさんも、実は「なんとなく気持ち悪い」感じを抱いているようで、この運動に全面的に賛同しているわけではない一歩引いた立場から取材をしていて、次のように語っています。
「トランスヒューマニズムは一種の解放運動で、他でもない生物学から全面的に解放されることを唱えている。他方、それには別の見方、大きさは等しくて向きは正反対の解釈もある。それはこの解放に見えるものが、実は技術への最終的、全面的な隷従に他ならなくなるということだ。」
 技術力を駆使して「不老不死」を手に入れよう! と言われたら、思わず「いいね!」してしまいそうになりますが、だからと言って、自分の身体に電子デバイスを埋め込むなんてことは、まだまだ、したくありません(怖いです)。そういう一般人感覚を抱いている人が、中立的立場(どちらかというと批判寄り)で書いている本なので、安心して読むことが出来ました(笑)
 この本には、「不老不死技術が進んだ未来を待つために死体を冷凍保存する施設」、「全脳エミュレーション」「脳を解く」「死を解く」などなど……SFっぽいことを、「本気で」実現しようとする勇気ある(ちょっと奇妙な)人々が続々登場してきます。
 なかでも「ぶっ飛んでいる」ように感じられたのは、「生物学とそれに不満を抱く人々」に出てきた、自分の身体に機械を埋め込んだ人々(医療のプロがやると医師免許を失いかねないので、医療のプロではない「肉体技工士」によって麻酔なしで行われたのだとか!)の取材記事。
「グライントハウス・ウェットウェアは、(中略)「安全で使いやすい、オープンソースの技術を使って人間の力を高める」という目標に向かって研究する人々のチームだ。その装置は皮膚の奥に埋め込むように設計され、人体の感覚や情報処理能力を強化することを意図している。」
 ……うーん。やっぱり自分でやってみたいとは思いません。……でも、「人体」に関する本当に革新的なことは、こういう人々の自己犠牲的な活動によって基礎が築かれるのかもしれないなー、と思わされました。
「トランスヒューマニズム」の主要な人々の活動や考え方が、実感できる本でした。このような活動家と直接会って話を聞くことはなかなかできないので、とても貴重な記事だと思います。人間(人体)の「未来」に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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